関寛斎と山下りん
朝日新聞の夕刊で週に1回、「街道をついてゆく」 という連載が始まった。
これは司馬遼太郎の 「街道をゆく」 をもじったもので、この連載の担当だった記者が連載中のいろいろな思い出をふりかえるものだそうだ。
わたしもそのひとりだけど、「街道をゆく」 のファンは想像以上に多いらしい。
朝日新聞は著者が亡くなったあとも、ワイド版を出したり、週刊朝日に特集を出したり、この遺産をフルに活用している。
今回の「ついてゆく」についても、おっ、またやってるなという印象。 でもファンにはありがたい企画かも。
この本について書きたいことは山ほどあるけど、今回は歴史に埋もれた人や事件に光をあてたという役割について書いてみる。
たとえば巻15 「北海道の諸道」 には、関寛斎という医師が登場する。
わたしはこの本を読むまでこの医師の名前を聞いたことがなかった。
幕末の蘭方医で、貧者への無料の医療で知られる赤ひげみたいな人である。
晩年がすさまじい。
73歳のとき、徳島県から北海道へ開拓民として移住した。
北海道・陸別開拓の第一期生で、その艱難辛苦は察するにあまりある。
83歳の自殺で彼の人生は終わるのだけど、「街道をゆく」 では、なぜそんな生き方を選んだのかと考えつつも、ことさらな賛辞はせず、最後はその墓についてぽつんと描写するだけである。
それがなんともいえない余韻を残す。
巻10 「佐渡のみち」 には小比叡事件というものが取り上げられている。
この本のおかげでわたしは、森鴎外の 「阿部一族」 を思わせる事件が、佐渡島にじっさいにあったことを知った。
明治の女流画家、山下りんの名前を知ったのも 「街道をゆく」 のおかげである。
日本ではめずらしいイコンという宗教画を描いた画家で、女性に教育などとんでもないという時代に、苦学してロシアまで留学もした (させられた) 人である。
彼女の晩年は不遇で、世間にほとんど忘れられた存在だったが、わたし同様、この本でその名前を知ったという人は多いにちがいない。
女性が教育をうけることの困難だった時代については、ほかにも、たとえば巻27 「因幡・伯耆のみち」 に、家政学者・福井貞子さんの記述がある。
短いエピソードだが、感動的な話である。
書かれたエピソードのひとつひとつが、ちょっと脚色すればそのまま小説のネタになりそうで、いいのかい、歴史作家が材料を、こんなに無料で公開しちゃってと心配になったもんである。
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