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2007年9月 6日 (木)

モッタイナイ

わたしにとって、本は読むものであって売るものではない。
読み終わってこれは不要と思った本は、ひとからげにしてゴミとして出してしまう。
本を売るためにわざわざ万引きまでする輩からみれば、さぞかしモッタイナイことと思われる。
そういうわたしも、いちどだけモッタイナイと思ったことがある。

以前中国に凝って、いろんな本を読みあさっていたことがあった。
新刊書だけではもの足りなくなって神田の古書街まで出かけてみた。
たまたまある本屋で、アグネス・スメドレーの文庫本を見つけた。
アグネス・スメドレーは日中戦争のころ、中国に渡ったアメリカの女性ジャーナリストで、国民党、共産党双方から取材し、魯迅や内山完造、ゾルゲ、尾崎秀実とも交わり、当時の上海にあった通信社の局長、松本重治の日記などにも登場する人物である。
彼女は悲惨な幼年時代をおくった人で、そのためか抑圧された弱者に肩入れする傾向がつよく、中国では共産党の代弁者のようなところがあった。
現在の新中国はその労に報いるために、エドガー・スノーらと並べて、北京に彼女の墓を建てているそうである。

彼女の文庫本はいくつか出ていたけど、わたしが見つたけたものは、すでに絶版になったらしく、どこの本屋でも見たことがなかった。
わたしは感激して、中味も見ずに購入してしまった。
絶版本ということで値段は安くなかったけど、もともと文庫本だから、高いといってもたかが知れている。
帰宅して読んでみたら、これは中国に渡る以前のスメドレーの自伝であって、中国に関する記述はほとんどなかった。
期待したようなものではなかったのだ。

それでこの本は一読しただけでゴミ扱い、そのうちどこかへ紛失してしまった。
しかしあとで考えた。
アグネス・スメドレーに興味をもって、彼女の本を探し求めているマニアがほかにもいるかもしれない。
売値なんかどうでもいいが、そうした人のために、この本はまた古書店の本棚にさし戻すべきではなかったかと思うのである。
ああ、モッタイナイ。

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