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2007年9月 1日 (土)

こころのうた

前項で折口信夫にふれたおかげで、一冊の本の数奇な運命 (といっちゃオーバーだけど) を思い出した。

若いころ読んだ本に、山本健吉さんの書いた現代詩の入門書みたいな文庫本があった。
専門的な本ではないので内容はおおざっぱなものだけど、印象に残る文章があっちこっちにあって、わたしは旅に出るときなどにバッグの底にしのばせて、よく愛読していたものである。

そのうちどこかで紛失してしまい、こっちもべつに惜しいとも思わず、それっきり10数年が経ち、本のタイトルも忘れてしまった。
わたしのわるいクセで、こういう本をときどき読み返したくなることがある。
読みたくなるといてもたってもいられなくなる。
ところがすでに絶版になったらしく、本屋でいくら探しても見つからない。
古本屋や図書館などをあたってみたが、なにしろ名著や稀覯本という類の本ではないし、たかが文庫本であるからなかなか見つからない。

しかし現在はインターネットの時代である。
そのうちネット・オークションにあたってみることを思いつき、著者名と、出版社はわからないが、文庫本であったことだけをキーワードに検索してみたら、これかも知れないという本が見つかった。
さっそくいくばくかのお金 (文庫本だからたかがしれている) と引き換えにその本を手にいれてみたら、図星! 
いや、しあわせな時代になったもんである。

本の名前は 「こころのうた」 という。
この本の中に釈迢空 (折口信夫) にふれた箇所がある。
釈迢空は詩人と民俗学者というふたつの顔のほかに、この本ではふれてないけど、性倒錯者という一面を持っていた。
生涯独身で通した彼は、藤井春洋 (男である) という若者を養子にとっているのだが、そのへんのことについてこの本はかんたんに記述する。
《(春洋) は能登羽昨の一の宮の社家の出であった。
「たぶの木の門」 のある家として、その生家はしばしば迢空に歌われている。》
と。

藤井春洋は太平洋戦争中に硫黄島へ出征して、そこで戦死した。
《三月には、軍から全員玉砕の発表があった。万事休すである。
21年6月には、春洋との共著歌集 『山の端』 を編んだ。
24年7月には、能登一ノ宮の海辺の松林に、春洋の墓碑を建てた。
28年に、迢空自身も同じ墓に埋葬された。》
詩を解説する文章自体が、これもひとつの詩のように清明な悲しみをうったえてくる。

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