勧酒
正月が近く、しばらく休みなので、おもいきりのんびりしようと、昨夜はダイコンとサトイモを煮た。
それが煮えるあいだ、ゆっくり長湯でもするつもりで、そのへんにあった本をかかえて風呂に入る。
わたしの部屋は本だらけなので、かかえる本に不自由はしないけれど、昨晩たまたまつかんだのは、以前このブログでもふれた山本健吉の「こころのうた」。
300ページあまりの文庫本である。
この本の中には60人ほどの詩人の作品が紹介されている。
湯につかりながらひろい読みしていたら、井伏鱒二の「勧酒」という詩が目についた。
原詩はカナ書きなので、勝手にひらがなに直すと
このさかづきを受けてくれ
どうぞなみなみつがしておくれ
花に嵐のたとへもあるぞ
「さよなら」だけが人生だ
知ってる人はもちろん知ってるだろうけど、これは井伏鱒二の創作ではなく、中国の漢詩を訳したものである。
原詩の原詩はこういう感じ。
勧君金屈巵
満酌不須辞
花発多風雨
人生足別離
意味は同じでも井伏流に翻訳すると、じつにひょうひょうとした人生の味わいのようなものが感じられてしまう。
漢詩では、だいたい味わいを感じるほど、わたしはそっち方面に詳しくないんである。
湯から出ればダイコンとサトイモが煮えている。酒もある。
少なくともこの一週間ばかりはあふれるばかりの開放感もある。
わたしはこの詩を自分にむけることにした。
煮っころがしを食べながら、ひとりで対酌するのもわるくない。
パキスタンではプット元首相が暗殺された。
社会は不穏だし未来は不安であるけど、さて来年はどんなトシになるのかね。
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