衝突
自衛艦と漁船が衝突した。
最新の機器を積んだイージス艦がこれじゃあ、軽ボートによるテロ攻撃なんか防げるはずないよなって考えちまう。
わたしは漁船に乗り組んだことはないけど、自衛艦には乗り組んだことがあるので、体験談を話してみる。
まず自衛隊にいたころ、小さな運貨船 (小さいといっても中型のヨットくらいある) を操船したことがある。
船の運転は車とぜんぜん違うのにめんくらった。
右に曲がろうとして操舵輪を切っても船はなかなか曲がらない。
ようやく曲がり始めたころには、もう舵をもとにもどさないと間に合わない。
まごまごしていると船はこちらの希望をオーバーしてどんどん右に曲がってしまう。
なれてくればつねに早め早めに舵を切って、船を希望の方向にむけることができるようになるけど、初めての人が操舵すると、船はたいてい船首をあっちに向けこっちに向けしながらジグザグに進むことになる。
急ブレーキにしたってそうだ。
たとえスクリューを逆回転させたって、停止するのはそうとう先になる。
大きな船ならよけいそうだ。
このときの操船は無免許運転だったけど、ま、海の上だし、むかしの話だからいいだろう。
こんな調子だから、もっとずっと大きな艦 (ふね) の操縦は簡単じゃないだろうなと思う。
自衛艦には、夜間でもかならず両舷と後部に見張りが立つ。
わたしも見張りはよくやらされた。
艦が漁船が操業中の、あるいはひんぱんに往来する海域を航海することはよくある。
漁船の数が多いと、正直いって牛若丸みたいに、それらをひらりひらりとかわして航行するのは不可能だ。
大きな船は、とてもそんなに敏捷に動くことはできないのである。
それじゃ最初から迂回すればいいじゃないかというのも、東京湾の近くのように、どっちを向いても船ばかりというところでは、あまり現実的じゃない。
航行規則というものがあって、船と船がぶつかりそうに接近した場合、相手の船を右側に見る船がどうこうするなんて決まりがあるけど、それはある程度大きな船同士の場合であって、自衛艦と小さな漁船の場合は、敏捷な漁船のほうがかわしてくれないと、なかなか規則どおりにはいかないのである。
わたしは夜間の見張りに立っているとき、艦首の近距離にいきなり漁船のエンジン音を聞いてびっくりしたことがある。
無灯火の漁船が近くで操業中だったのだ。
それをすばやく報告して、当直士官からじきじきに、今日の見張りはなかなか優秀であると誉めてもらった、なんてことはどうでもいいけど、今回の被害漁船は無灯火だったというわけじゃないようだし、この文章は自衛艦を擁護するために書いたわけじゃない。
わたしの経験からすれば、今回の事故はいくつかの不運が重なったとしかいいようがないんだけど、行方不明の人のことを思えば、ぜんぶ自衛艦がわるいってことで異論はないのである。
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