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2008年4月 6日 (日)

カイドウ(海棠)

099

カイドウ (海棠) である。
この季節に咲く花のなかでは、それほど目立つ花ではないけど、わたしの好きな花である。花の色にグラデーションがかかっているのがなんともいえずいい。

海棠の出てくる小説は少なくないと思うけど、わたしがすぐに思い出すのは、夏目漱石の 「草枕」。
この小説は、ほとんどビョーキといいたくなるくらい旅好きなわたしにとって、一種のあこがれみたいな旅を描いた小説なので、漱石の作品の中でも特別に好きな作品のひとつ。

田舎の宿に泊まった青年の枕もとに、深夜もうろうとした唄声が聞こえる。
夢かうつつかと飛び起きた青年が見たものは、庭の海棠の木を背にしたその家の美しい娘の姿。
この娘は当家の出戻り娘だし、ここで男と女がなんとかなっちゃうわけでもないから、すぐに怪しい関係になっちゃう最近の小説を読みなれた人には物足りないだろうけど、本を読んで空想や妄想をたくましゅうするのが好きな人には、「草枕」 はそうとうに官能的である。味わいがいのある小説である。

この小説の中に、主人公の思い出として、もうひとつの旅のエピソードが出てくる。
房総へのひとり旅で体験した奇妙な出来事についてだけど、若いころ、やはり房総半島をひとりで横断したことのあるわたしにとって、まるで自分の体験のように錯覚してしまう。
ゆきずりの宿屋に泊まったら、その家に美しい姉妹がいたなんて思い出は、わたしも持っているのである。
ただし気のよわいわたしは、帰りがけにチップですなんて余分に払うのが精一杯。
前の晩に払っておけば、その晩はもっとイイことがあったんじゃないかと、あとで反省したけど手遅れだよな。

ということで、海棠の花を見ると思い出すのは、那古井の里のお那美さんのことである。

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