ある回顧録
帰省したおりにたまたま読売新聞を目にして、その土曜版に連載されている辻井喬(敬称略)の回顧録を読んだ。
ご存じのとおりこの人は本名を堤清二といって、かっては西武デパートの経営者としての肩書をもっていた人である。
彼の父親は西武鉄道の創業者だった堤康次郎だけど、戦前の企業の経営者には経済感覚よりも、政治家と結託してやらずぼったくりの山賊のような性格をもった人物が多かった。
西武鉄道もその裏面史はひじょうに興味のある部分が多い。
堤清二はそうしたいかがわしい人物の犠牲になった女性を母にもち、いかがわしい人物本人を父親にもつという複雑な家庭に育った。
それが作家・辻井喬の作風に大きな影響を与えていることはいなめない。
わたしのような皮肉屋からみると、正直いってこの人の文章はまじめすぎる。
新刊が出てもちょいと買おうって気になれないものだ。
しかし上記のような複雑な家庭環境で育った人であるから、辛口で言わせてもらえば、回顧録こそがこの人の読むに値するゆいいつの作品かもしれない。
事実この回顧録はひじょうにおもしろかった。
わたしは連載の1回分を読んだだけだが、ここでは名前こそ挙げていないものの、清二の異母兄弟にあたり、彼をさしおいて西武鉄道の総師となった体育会系の弟とその経営哲学に対する反感が読み取れる。
辻井喬氏のとりまきの中には著名な芸術家や音楽家が多かった。
そうした友人のおもしろいエピソードも挿入されているが、回顧録がまるで彼の交友録みたいにみえるのは、わたしのような市井の野人にはあまり歓迎できることではない。
それでもこの回顧録が一冊の本になったら、買ってみようか、いや図書館に行ってみようかと思い悩んでしまう。
わたしが買ってあげなくてもこの作家の生活がなりたたなくなることはないと思うので。
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