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2008年11月11日 (火)

ワイエス

先日の日曜日は米国の画家アンドリュー・ワイエスの個展を観てきた。

Aw

ワイエスはアメリカの原風景ともいえる風景・人物を、徹底したリアリズムで描いた画家で、現役の画家としては米国でもっとも人気のある作家のひとりである(のだそうだ)。
アメリカにはアンディ・ウォホールを筆頭に、アクション・ペイントだとか落書きペイントだとか、いわゆるポップ・カルチャーが生んだ一群の画家たちがいるけど、それは技術や才能よりも、どっちかというとひらめきやアイディアが重要な絵である。
わたしは彼らの絵を欲しいとは思わない。
彼らの絵をプリントしたTシャツでもあれば十分だ。
しかしワイエスの絵はそんな軽いものではない。

わたしがワイエスを知ったのは朝日新聞の日曜版に連載されていた 「世界名画の旅」 というシリーズにおいてである。
そこで彼の代表作 「クリスチーヌの世界」 を観たのが最初だった。

添付した絵がそれだけど、観た瞬間はピクニックにでも来た女性を描いた絵かと思った。
そういや、マネの時代からピクニックは絵のモチーフとしてよく使われているもんなと。
しかしピクニックならサンドイッチ入りのバスケットや、草の上の敷物ぐらいあってもいいし、もっと楽しさがあふれていていいはずなのに、この絵では遠方に見える建物からひしひしと迫る孤独感のようなものしか感じられない。

解説を読んで女性が小児マヒの障害者であることを知った。
そういえば、よく見ると女性の手足は異常なくらい細く、奇妙にねじれているようである。
「クリスチーヌの世界」 は障害者の孤独と、それにめげずに生きるこの名前の女性を描いた絵だったのである。

今回の個展には 「クリスチーヌ」 は写真だけしかなく、人物画よりも建物やその習作が多かった。
習作というのは文字どおり、ひとつの作品のための練習作、もしくは下描きだけど、ワイエスのような大家でさえ、しつように習作を繰り返していることにおどろかされた。
彼の絵は基本的には水彩画だけど、老眼鏡を持ち出して絵の細部まで観察すると、ぼかしやにじみだけではなく、ひっかいたりこすったり、乾いた筆で色を塗るドライブラッシュなど、じつにさまざまな技法が駆使されているのがわかる。
いまからまた水彩画でも習おうかしらというわたしじゃ永遠にたどりつけない世界である。

最終作品はテンペラ絵の具で仕上げたものが多かったけど、水彩で描かれる習作の終りのほうのヴァージョンの中には、最終作品にまさるともおとらない傑作といってもいい絵もある。
わたしは水彩画が好きだし、省略の多い荒削りの作品もまた好きなので、とくにそう思ってしまうのである。

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