東トルキスタン
シルクロードとして知られる中国の新疆ウイグル自治区がキナくさい。
わたしはそこへ3回も行ってきたことがあるので、あの地にはとくべつな思い入れがある。
ウイグル人にも中国にも肩入れすることなく、自治区が独立して東トルキスタンという単独の国家になった場合を想像してみよう。
東トルキスタンというのは中国に組み込まれるまえのこの土地の名称で、楼蘭を探検したスワン・ヘディンの著書にもそういう名前で出てくる。
住人のほとんどはイスラム教徒のウイグルである。
砂漠の国なので人口は極端に少ないが、天然ガスなどの資源は豊富であるとされる。
どうも地下資源というとイスラム圏にばかり集中しているようだけど、住みにくい砂漠で苦労して生きてきた民族への、神様のささやかな贈り物かも。
そういえば住みやすい日本には温泉ぐらいしか湧かないもんな。
資源が豊富なだけに、東トルキスタンの権力をにぎったものは莫大な富を手にすることができる。
問題はその富が民主的に、公平に、教育や福祉やインフラ整備に使われるかどうかだ。
ウイグル人は素朴な農耕民族だけど、他のイスラム国のように、部族の長や宗教指導者に率いられる部落社会である。
国際的に通用する民主主義がどんなものか、きちんと理解しているかと訊かれるとちょっとこころもとない。
今回の暴動事件の舞台となったウルムチという街の周辺には、ウイグル以外の民族も住んでいる。
わたしもじっさいに見てきたが、たとえばカザフやキルギス、回族などがいる。
カザフとウイグルはひじょうに仲がわるい。
東トルキスタンの指導者がもしウイグル人なら、カザフを公平に扱うかどうか。
他の民族のために富を公平に配分するかどうかってことになるけど、わたしにはあまり期待できないような気がする。
チベットにはダライ・ラマというカリスマ的指導者がいるけど、ウイグルにはそんな強力な指導者はいないので、独立のあと、権力、すなわち富をめぐって熾烈な争いが起こりそうな気がしてならないのである。
熾烈な争いはとうぜん、他の民族をまきこむ血なまぐさいものになるだろう。
民族浄化とまでは行かないとしても、サダム・フセインのような独裁者が、力づくで国内を抑え込まないかぎり収まりがつかないのではないか。
しかもまずいことに、この国はタリバンやアルカイダといった、テロリストを多くかかえるアフガニスタンに接している。
東トルキスタンが混乱すれば、多くのテロリストに絶好の活躍場所を与えることになる。
だから本音では、国際社会はけっしてこの国の独立を支持しないだろうし、残念だけど、素朴で愛すべきウイグルの人々にとって、バラ色の未来どころか、現在よりましな社会さえ来るとは、わたしにはちょっと考えにくいのである。
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