8 1/2
待てば海路の日和あり、ということかしらん。
DVDを買おうかどうかと迷っていたフェリーニの 「81/2」 がテレビで放映されるらしい。
難解な映画の代表みたいな映画だけど、世界のどこの映画評でもかならずトップテンに入る、たとえばオーソン・ウェルズの 「市民ケーン」 みたいな傑作である。
フェデリコ・フェリーニという監督は、一見するとこわもての実業家みたいな、かっぷくのいいおっさんで、ぜんぜん芸術家ってイメージじゃないんだけど、ちょいとほかに比肩する相手のいない偉大な映画監督だ。
わたしがこの人を好きなのは、難解な芸術作品ばかりではなく、「道」 のような過酷な現実をまっ正面から描いた作品、「アマルコルド」 のようなユーモアとペーソス、詩情ゆたかな映画も同時に作れる監督だからである。
どこかの国の映画のように、しかめっつらをしてこれが芸術でゴザイマスってのとはちがうのだ。
日本では寺山修司なんかもこの人を尊敬していたようだけど、映画監督だけではなく、詩人、作家、画家など、さまざまな分野の芸術家たちが仰ぎ見る巨匠なのである。
もっとも正直に告白すると、観念がすぎて、作品の中にはぜんぜんおもしろくないものもある。
フェリーニの理解者であるつもりのわたしも、最後まで観ないで放りだした作品がいくつかある。
しかし 「81/2」 は傑作である。
そうかいそうかいと意気込んて観ようって人には気のドクだけど、「81/2」 にかぎっていえば、そうそうお気楽に観られる映画ではない。
ストーリーなんてあるのかないのか、不思議なイメージがつぎつぎと現れるムズカシイ映画なのである。
うーむとずっこけた人には、わたし流のこの映画の鑑賞方法を紹介しよう。
わたしはこの映画を観るとき、いつも詩を読むときのスタイルで、つまり無理に意味を理解するのではなく、その持っている言葉の美しさや韻律に自然に身をまかせるようにする。
この映画でも、カルディナーレがきれいだな、ふてくされて踊るアヌーク・エーメがすてきだなと思って観ていると、いつのまにか最後の大団円 (文字通りの大団円!) になる。
道化師があらわれて、さあ、みんなで幸せになりましょうと叫ぶと、映画の登場人物だけではなく、観客のあなたもひっくるめて、みんながみんな幸せにされてしまう。
ウソだと思ったら、百聞は一見にしかずだから、レンタルビデオでもなんでもいいからまず観てみることだ。
なんともいえない不思議な映画、それがタダで観られるということなので、こういうときだけはNHKさまさまと、すなおに感謝してしまう。
つぎはぜひ 「アマルコルド」 を放映してほしい。 頑張れ、NHK!
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