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2009年11月25日 (水)

坂の上の雲の4

「坂の上の雲」 の文庫本4巻目になって、いよいよ日本海海戦とならぶ日露戦争の有名な旅順の攻防戦になった。
わたしは明治時代にはまだ生きてなかったので、聞いたハナシ、読んだハナシになるけど、この戦役については、まあ、よく知っているほうだと思う。
ぜんぜん関係ないような一例で、たとえば東北地方の民話伝説を集めた 「遠野物語」 にも、旅順の悲惨さにふれた個所がある。
わたしの高校時代の教師にいわせると、相手の機関銃の弾よりこっちがつぎこむ兵士の数のほうが多かったから、ようやく勝てたとのことである。

司馬遼太郎はあちこちで、かなり執拗に、このときの日本の乃木希典大将の無策無能ぶりを書いている。
日本がはじめて体験する近代戦争で、はじめて機関銃のまえに立たされた日本軍に、それほどたくさんの選択肢があったかどうかってことで、乃木大将に同情の余地もないわけじゃないけれど、数万の将兵を死傷させた軍人が、戦後責任をとるわけでもなく、のうのうと出世したことに疑問を感じたんじゃないか。
平成の世に生きるわたしには、もはや乃木大将をほめる、けなすの興味はないけれどサ。

それはともかくとして、「坂の上の雲」 を読んで、わたしがこれまでもっていた歴史認識のいくつかがゆらいできた。
あまり好意的に書かれていないロシア軍も、冷静に読んでみれば、頑迷な日本軍の参謀本部よりもはるかに柔軟性に富んでいたように思えてくる。
たとえば日本軍が手薄な203高地に中途半端な攻撃を仕掛けると、ロ軍はたちまちこの高地の重要性に気がついて、迅速にそこを要塞化してしまう。
これに比べれば日本軍の中に、勇敢な軍人や機転のきく軍人はいても、本格的な軍略家として有能な者はひとりもいなかったのではないかと思えてくるのである。

この戦いで、日本軍が兵士の人命を軽んずることはおどろくほどだし、ロシア軍のほうがまだしも兵士を温存しようという配慮がある。
それが退却という行為になって日本にあなどられることになるのだけど、膨大な人的資源を浪費した日本軍と、どっちが作戦的にも人道的にも上だったといえるだろう。
ロシア軍の思考はまっとうなものであって、軍隊の士気もそれほどひどいものではなかった。
ただ日本軍がやみくもな突進を繰り返し、死体の上に死体を重ねあげるという、ヨーロッパの軍隊からすれば常識はずれの作戦を続けたのが勝因だったんじゃないかと思ってしまう。
このさい秋山兄弟なんて、まるでとるに足りない存在ではないか。

まだあと4巻もあるから、このあとの展開はわからないけど、あまり日本のひいきばかりしていると、作者のコケンにかかわってくるではないかと心配してしまう。

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