蕪村
「坂の上の雲」 のその後を読んでいたら、主要登場人物の正岡子規に関連して、俳人の蕪村のことが書かれた箇所があった。
わたしは蕪村が好きである。
芭蕉よりも蕪村のほうが好きである。
このへんの事情については詩人の萩原朔太郎が論じているので、いちいち説明しない。
萩原朔太郎の 「郷愁の詩人・与謝蕪村」 については、目下ネット上の青空文庫に載せるための作業中だそうだから、そのうちタダで読めるようになる。
金を出してまで読みたくないという人はそれを待つヨロシ。
いかのぼりきのふの空のありどころ
わたしの好きな蕪村の句である。
つかもうとしてつかめない遠い日の悲しみのようなものがうたわれている。
蕪村にあって芭蕉にないものは、この個人の悲しみの感情だと思う。
いつだったか駅のホームで空を見上げたことがある。
よく晴れた秋空の、ちぎれ雲のあいだに小さな黒点が見えた。
あれはなんだろうと思ってじっと見つめたけど、遠すぎてわからない。
鳥にしては動きが少ないし、航空機でもない。
そのうち、その黒点よりもっと近いところに別の点があるのに気がついた。
こちらは赤い色をしていて、それがどこかの運動会かデパートの催し物で、人間の手からはなれたゴム風船であることがわかった。
つまりふたつの風船が空の高いところをただよっていたというわけだ。
いったいどこまで上がっていくのだろうと、風船をしばらく、ぼんやりとながめていた。
“いかのぼり”の句はこのときの心境にぴったり (のような気がするのである)。
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