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2009年11月22日 (日)

坂の上の雲の2

歴史を考慮しないで、むかしも今も同じ社会だったと錯覚したまま、あそこがケシカラン、ここがケシカランといいはる人が、わたしの周囲にもいる。
たとえば慰安婦問題などがそうだ。
その当時は日本でも、東北などの貧しい農家の娘が身売りをするのが不思議でもなんでもなかったという事実を考えずに、人間を売買したのはケシカランという人が多い。
問題があるとすれば、慰安婦そのものではなく、当時の社会情勢だったんだよ、キミ。

文春文庫版の 「坂の上の雲」 2巻目を読んでいる。
司馬遼太郎は太平洋戦争について、日本の軍部の暴走であったとあちこちで断じていて、この点では冷静かつ常識をそなえた作家であることは明白だけど、明治のころの国際情勢について、この本ではまるで右翼作家のようなかなりはげしい書き方で、当時の日本人の列強 (とくにロシア) に対する恐怖を描いている。
わたしはもちろん列強のアジア蚕食ぶりを知っていたけど、とてもとてもそんな程度ではなかったようである。

ロシアやドイツは英仏よりも遅れて帝国主義に参加したので、そのぶんやり方は乱暴だったとある。
まず被害にあったのは中国で、まるで白昼強盗にあったように強引に領土を奪われ続けた。
中国、朝鮮がロシアの手に落ちれば、つぎはまちがいなく日本だという認識は、このころのすべての日本人がもっていた。
日本の侵略主義の萌芽を明治時代に見出す人もいるけど、日本人にとってみれば座して死を待つより、打って出るよりほかはないというのが現実だったのである。

中国で義和団事変がおこると、列強 (日本も含む) はこぞって出兵したが、ロシアは出兵した軍隊がそのまま満州に居座ってしまった。
これでは早晩日本とロシアが衝突するのは間違いないと思わせるあたりで、「坂の上の雲」 の2巻目は終わる。

さて、このあとはどうなるのか。
必死になって列強に伍する力をつけようとしている、けなげな極東の弱小新興国の運命は。
当時の日本人になったつもりで読んでいこうと思う。

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