坂の上の雲の5
旅順の攻防戦であまりにも膨大な人的資源を浪費した日本軍について、ほかに方法はなかったのかと考えつつ 「坂の上の雲」 を読んでいる。
仕方がなかったという人もいるかもしれない。
日本にとって近代戦というのは初めてだったし、もともとロシアの強圧においつめられて、ろくな準備も兵器の備蓄もなしに始めざるを得なかった戦争なんだからと。
まあ、そういう同情すべき点はたしかにあるんだけど、わたしはしろうとながら、この本を読みつつ考えてみた。
戦争が始まると、ロシアの太平洋艦隊は旅順の港にひっこんで出てこない。
まともに日本の連合艦隊と衝突すれば、互角、もしくは不利だということで、ロシア艦隊はヨーロッパからバルチック艦隊が回航してきて、それと合流するまで待つ時間かせぎ作戦である。
合流されると日本艦隊に不利だから、日本軍のほうではなんとかそのまえに旅順港にひきこもりのロ艦隊を撃滅したい。
しかし強引に艦隊で旅順港を攻撃すると、港の周囲を要塞化したロ軍の陸上からの砲火によって、かえって撃滅させられかねない。
そこで陸上の砲火を沈黙させるために、乃木大将の率いる陸軍が要塞攻撃ということになるのだけど、これがしかばね累々という戦史に残る悲惨な戦闘になってしまった。
さて、どうだろう。
この状況でほかに方法はなかっただろうか。
要塞攻撃なんかしなければいいじゃないかと思っちゃうけど、これはどうか。
じつはロ艦隊もひきこもりばかりしていたわけじゃない。
「坂の上の雲」 によると、ロシア皇帝の命令と、主としてロ軍司令官の都合で、艦隊はいちどは旅順港を出てくるのである。
このさい日本艦隊にこてんこてんにやっつけられて、沈没こそしないものの、傷ついて旅順港にもどる艦あり、ウラジオストックに遁走した艦あり、座礁した艦、中立国で武装解除された艦ありで、ほとんど艦隊崩壊という状態になってしまった。
にもかかわらず、まだ日本の艦隊は旅順港の完全制圧にこだわっている。
乃木大将はいたずらにロ軍要塞に日本の将兵の命をつぎこんでいる。
旅順港内のロ艦隊はほとんど崩壊寸前なのだから、日本の艦隊は一部だけを残して、さっさと本土へもどってバルチック艦隊との戦闘にそなえる準備をすればよかったんじゃなかろうか。
要塞というのは動けないのだから、乃木陸軍も旅順港周辺の要塞はほっぽらかして、ロ陸軍との会戦にそなえたほうがよかったように思うけど。
やがて日本海に到着するバルチック艦隊も、「坂の上の雲」 を読んだかぎりではあまり強そうに思えないので、このあたりは当時の日本軍の情報不足と、おくびょう風が影響しているような気がしてならない。
後世のしろうとが無責任なことを、と非難されるかもしれないけど、膨大な日本兵の命を費やしたことについて、ついいろいろ考えてしまうのである。
というあたりで 「坂の上の雲」 の話題は閑話休題にしとこ。
じつは文庫本は4巻までしか買ってなかったんだけど、あとの4巻を買おうかどうか迷っている。
ほんとうに読み応えのある本なら、ワタシゃ金にいとめをつけない主義だけど、この本にそれだけの価値があるかどうか。
あとは図書館にでも行って読めばいいじゃないかという気持ちもある。
司馬遼太郎の「街道をゆく」全巻を読んだことのある人間には、「坂の上の雲」 はそれほど新味のある本ではないように思えるのだ。
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