「渇いた太陽」の2
テレビから録画しておいたリチャード・ブルックス監督、ポール・ニューマン主演の 「渇いた太陽」 って映画、忙しくてなかなか観るヒマがなかったけど、昨夜はそれを最後までじっくりと観てみた。
わたしは 「渇いた太陽」 なんていう映画のタイトルからして、悪徳政治家に牛耳られた街で、ポール・ニューマン扮するワルが、生き馬の目をくりぬくような、リアルな社会派映画だろうと思っていた。
ところが、なんかホテルの一室でのシーンがやけに長い。
映画の2/3を過ぎてもまだホテルの1室である。
そうか、これは舞台劇だったのかと思い当った。
そういえば原作はテネシー・ウイリアムズである。
この人は戯曲作家である。
この映画は失意のうちに郷里を出た青年が、なんとかセレブの仲間入りをして周囲を見返してやろうと、必死になって有名女優に取り入るあたりのかっとうを描いた心理劇だったのである。
そんならもうすこしテネシー・ウイリアムズらしい題名にすればよかったのにと思う。
原題は Sweet Bird of Youth というもので、ウィキペディアには 「青春の甘い小鳥」 なんてタイトルで出ている。
なんかラブ・ロマンスみたいだけど、こっちのほうがまだしもテネシー・ウイリアムズらしい。
映画化されたこの作家の作品はほかに 「欲望という名の電車」、「熱いトタン屋根の猫」 などがあり、どれもありそうでなさそう、なさそうでありそうという意味深長なタイトルばかりなのである。
それでも 「渇いた太陽」 は、舞台劇の映画化としてはなかなかの力作だ。
映画は落ち目の女優と彼女にまとわりつくジゴロのような男が、彼の故郷の街の高級ホテルにたどりつくところから始まる。
この落ち目でのんだくれの女優を演じるジュラルディン・ペイジという年増女優が、なかなか魅力的で、ムヒヒと彼女を見ているだけで退屈しない。
けっしてイロっぽいだけじゃなく、その演技力もたいしたものである。
呑んだくれの酔っぱらいから始まって、甘えたりすかしたり居丈高になったり、ベッドの上で吉報の電話を受け取るあたりのひとり芝居など、アカデミー賞ものじゃないか。
そう思って調べてみたら、彼女はノミネートされたものの受賞はしなかったようだ。
この年は 「奇跡の人」 のアン・バンクロフトという超強敵がいたせいで。
映画の後半でポール・ニューマンのジゴロが、落ち目女優から見下り半をたたきつけられるシーンがある。
このあたりはちょっと図式的で感心しないけど、必死で口利きを懇願するジゴロを、女優はせせら笑って放置していこうとする。
現代の青年ならすぐにプッツンで、女優の首を締めて刑務所行きになるところだけど、そうしないのはさすがに大人の映画。
このあとジゴロ青年が、まっとうな愛にめざめるなんてのは出来すぎだけど、映画なんてものはみんなフィクションと割り切ったって、最近の 「レッドクリフ」 なんて映画よりはるかにマシだ。
女優とジゴロがめでたく退陣したあとのラストシーンで、残った老年男女のやりとりが、ズシンと腹に響くぐらい気持ちイイ。
添付した画像が、イロっぽいその年増。
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