ジャニス・ジョプリン
ベッド・ミドラーとジャニス・ジョプリンが似てるかどうかは別にして、ミドラーが演じた映画 「ローズ」 の主人公はジャニスがモデルだそうだ。
数日まえに録画した 「ローズ」 を観ながら考える。
わたしにとってジャニスは、ジミ・ヘンドリックスやジム・モリソンと並ぶ、70年代に消滅した彗星のひとつ。
わたしはロバート・クラムがデザインしたポップなジャケットの 「チープ・スリル」 で、はじめて彼女の歌を聴いたんだけど、まず好きになったのが 「サマータイム」。
この曲は黒人オペラ 「ポーギーとベス」 の挿入歌で、この手のロック・バンドが取り上げるにはめずらしい曲だけど、ジャニスのファンはまずこの抒情的な曲にノックアウトされるみたいである。
有名なスタンダード・ナンバーにもなっている曲だから、ジャズやポピュラー界のいろんな歌手が歌っているけど、ジャニスの歌声はアル中患者のようなしわがれ声なので、そのへんがビックリ。
それでもやっぱり、もと歌が美しい歌というものは誰が歌っても美しいものだ。
わたしはこれまでいろんな歌手の 「サマータイム」 を聴いたけど、ハズレはほとんどなかった。
しかし 「チープ・スリル」 の中でほんとうの聴きものは、アルバムの最後に入っているビッグ・ママ・ソーントンの 「ボール・アンド・チェーン」 じゃあるまいか。
タイトルの意味は、鉄の玉と鎖、つまりよくアメリカ映画で囚人の足にくくりつけてある逃走防止の重りである。
この歌では黒人奴隷をしばりつけていた抑圧の象徴といっていいだろう。
ここには押し殺したような悲しみの感情があって、わたしはこの歌のジャニスがとても好きである。
わたしは彼女の伝記映像を観たことがあるけど、歌手として知られたあとも孤独や疎外に苦しんだ人のようだから、この悲しみは彼女自身の悲しみでもあるようだ。
とはいうものの、わたしはジャニスのそんなにいいファンではない。
彼女のアルバムはほかにも持っていたけど、熱心に聴いたのは 「チープ・スリル」 だけだった。
他のアルバム、「コズミック・ブルース」 や 「パール」 を徹底して聴くと、あまりにも強烈すぎる個性が鼻についてくることもある。
彼女が長生きしたとしても方向転換はむずかしかったんじゃなかろうか。
ベッド・ミドラーのほうは、ロックでもバラードでも、ソウルでもポピュラーでもなんでもござれで、しまいには役者としても成功したけど、これはジャニスには無理だろう。
ひょっとすると彼女はいちばんいい時期に死んだのかもしれない。
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