幾何級数の威力
またひとつ。アイザック・アシモフの話題。
SF作家だからとうぜんSF作品が多いけど、彼の作品のもういっぽうの柱は、むずかしい科学をやさしく解説した科学エッセイ・シリーズである。
アシモフの科学エッセイは早川書房や社会思想社から、文庫本で少なくても14冊出ている (現在でも刊行されているかどうかはしらない)。
14冊というのは、わたしの持っているのがそれだけということだ。
どのエッセイもたいていはユーモアのある前置きから始まるので、この部分を読むのが楽しみというファンも多い。
そんな彼が 「幾何級数の威力」 という科学エッセイを書いたのは1969年だから、いまから40年ほどまえのことだ。
幾何級数というのは1の倍が2、2の倍が4、4の倍が8、8の倍が16というネズミ算のことであるらしい (わたしは数学者ではないのでくわしいことは知らない)。
この文章のなかでアシモフは幾何級数の威力を最大限に活用して、人口増加とその先にある破滅的な未来について警鐘を鳴らしている。
1969年当時は、これは人類にとって核戦争よりもおそろしい、確実に迫りくる脅威だったのである。
アシモフの警鐘とはどんなものか。
当時 (1969年) のスピードで人口が増えていった場合、地球が人間でいっぱいになるまでに、あと何年かかるかという計算がそれである。
この場合の “地球が人間でいっぱい” というのは、日曜日の歩行者天国ぐらいの密度で、海の上まで板をはりめぐらせて、地球表面のどこもかしこも人間が立った場合ということになる。
地球の表面積にその人口密度をかけて、ここまで人間が増えた場合、アシモフは地球の人口は20兆人になっているだろうと計算する。
それはいったい何年後のことなのか。
ここで登場するのが幾何級数である。
それは600年後だという。
ええっ、そんなに近いの!と驚いた地球人のひとりがわたしである。
アシモフの計算はさらに極端にまで進んでいって、この宇宙全体のあらゆる惑星、恒星の表面が人間でいっぱいになる日を計算してみせる。
それもけっしておどろくほど遠い未来ではないのである。
まあ、そんな極端まで到いくまえに人間は核戦争かなんかで絶滅しているだろうから、これは杞憂というものだけど、このエッセイそのものは読んでなかなかおもしろかった。
アシモフの計算から40年ばかりすぎた。
今では、なんと人口減少が問題なんだそうだ。
人口増加を抑えさえすれば地球の未来はバラ色のはずだったのに、少子化が騒がれている現在では、民族問題、資源争奪戦、環境汚染などで世界はますます混迷の度を深めているようにみえる。
中国やインドのような人口大国を含む世界中の国が、アメリカや日本のような消費大国をめざしているのだから、はたして地球のエネルギーはいつまでもつのかいと心配になってしまう。
アシモフが生きていたら、幾何級数を使って、今度は地球のエネルギーが枯渇するまでの時間を計算してみせるだろう。
そのころには代替エネルギーがあるはずだって?
アシモフのことだから、たぶん全宇宙のありとあらゆるエネルギー源が枯渇するまでを計算してみせるんじゃないか。
それはわたしたちが愕然とするほど近い未来かもしれないぜ。
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コメント
たしか、全宇宙の質量を食料に還元できたとしても、人類の文明は6000年しかもたない、のではなかったでしょうか。
投稿: 451f | 2011年11月13日 (日) 11時53分
おお、あなたもアシモフを読んでますね。
あわてて本箱からアシモフをひっぱり出してみました。
アシモフの「幾何級数の威力」ではべつの計算もされていました。
地球上のどんな生物でも、もとをたどれば太陽のエネルギー、つまり植物の光合成で生命を維持しています。
ライオンやトラのような肉食動物も、シカやウサギなどの草食動物をエサにしているわけですからね。
太陽からの放射エネルギーは一定ですから、地球で生存できる動物の量には限度がある。
人間が増えるたびに、その分だけほかの動物が減らなければならない。
そうしていって、ついに最後に地球上の動物のすべてを人間が占めるのはいつのことか。
アシモフの計算では、それは624年後のことだそうです。
人口が際限なく増えていくという前提は、最近いくらかゆらいでいますが、原発事故のあとさまざまな代替エネルギーが話題になってます。
再生可能エネルギーだけで、人間と野生動物がともに生存していければいいのですがねえ。
投稿: 酔いどれ李白 | 2011年11月13日 (日) 14時39分