戦場のピアニスト
テレビで放映されたものだからタダである。
ひと目観て傑作だと思った。
ふた目観たときにはもう冷静になっていたので、そうは思わなくなっていた。
これはなんとかいう実在のピアニスト、彼はユダヤ人なので第二次世界大戦でドイツによる迫害をうけるのだけど、その体験を描いた実話だという。
映画の前半はワルシャワにおける悲惨なユダヤ人の生活ぶりと、ドイツ軍の残虐ぶりが際立っていて、たいていの人が感動してしまう出来だ。
後半は隠れ家にひそむピアニストの隠遁生活が描かれる。
彼のひそんだ建物のベランダから、ドイツ軍と抵抗組織の闘いが見下ろせる。
戦争はひとりぼっちのピアニストと無縁のところで、どんどん推移していくのである。
無力な芸術家が戦争にかかわることもできずに、高みからそれをながめているという描写はわるくない。
やがて抵抗運動が鎮圧され、ピアニストはこんどは廃墟となったゲットーの建物の中にひそむことになる。
ヒゲもじゃでホームレスのようになった彼は、ここでついにドイツ兵に発見されてしまうのである。
で、どうなるかというと、ピアニストを発見したドイツ軍の将校は、彼のピアノを聴いてたちまち尊敬の念をいだき、彼が生き延びるために尽力する・・・・・・・・
ということなので、この映画はピアニストとドイツ軍将校の友情のようなものがテーマだろうと思っていた。
ところが肝心のその人間心理が、この映画ではふかく追求されているとはいいがたい。
将校はいちどピアノを聴いただけで、たちまちピアニストに同情し、2度ほど食料を運んでやるのだけど、それだけでこんどはロシア軍の侵攻のために撤退していってしまう。
このあたり、予想していたほど2人の関係が克明に描かれているわけではない。
あっさりしていてもの足りないのである。
別れしなに将校は、神のご加護をといって去る。
なかなか剛毅で人間味のある軍人のようなので、わたしはてっきりこれが彼らの今生の別れになるものと思った。
ところがこの将校は映画の最後になってもういちど登場する。
ロシア軍の捕虜収容所で、たまたま通りかかったポーランドの音楽家に、わたしはなんとかいうピアニストを救ったことがある、彼に伝えてくれと哀願するのである。
なんだか女々しい。みっともない。
ロシアの映画で 「僕の村は戦場だった」 という作品があり、ここではドイツ軍との戦いに志願した少年が、敵地に潜入して行方不明になってしまう。
戦後、少年を知るロシア軍の兵士が、ドイツの捕虜収容所で少年が処刑された痕跡を発見するのである。
悲しみが骨身にしみいるような映画だった。
「ピアニスト」 でも、戦後になって手紙や写真などで、かっての友情を思い出すというような展開のほうが、悲劇がきわだったような気がしてならない。
最近の映画の中ではなかなかマシなほうだと思うけど、そういうわけでわたしは傑作という評価をひっこめてしまうのである。
| 固定リンク | 0
コメント