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2010年10月18日 (月)

美しく青きドナウ

2001a

「美しく青きドナウ」 は、なんせ年にいちどのウイーン・フィルの新春コンサートで、トリに演奏されるくらいだから、ウインナ・ワルツの名曲であることはまちがいない。
ワルツは円舞曲と訳されるので、これを聴くと王宮での優雅な舞踏会のようすを連想する人が多いんじゃないだろうか。
じっさい新春コンサートでも、演奏の背景に着飾ったウィーンのダンサーたちの踊りが流されることが多い。
そんなイメージの 「青きドナウ」 だけど、現代のファンにとっては、ぜんぜん場違いなものが連想されることになってしまった。
映画 「2001年宇宙の旅」 で、この曲がBGMとして使われたからである。

先日、デジタルになってまた録画したのを機会に、この映画について書かれた 「メイキング2001」 という本を読み返してみたら、公開当時このミスマッチを非難する声が多かったことがわかった。
なんで未来を描いたSFに、19世紀の円舞曲が使われなくちゃいけないのか。SFだったらSFらしく、現代音楽でも使うべきじゃないかということである。

この映画では人工衛星とスペースシャトルがドッキングする場面で 「青きドナウ」 が使われている。
この場面が衛星とシャトルがワルツを踊っているようにみえるから、わざとワルツを使ったという意見もあるけど、それはたぶん、たまたまの偶然だろう。
「2001年」 をつくった映画監督のスタンリー・キューブリックは、既成の音楽を効果的に使うのがじつにうまい監督だった。
「博士の異常な愛情」 や 「シャイニング」 では古いポピュラーが使われ、「バリー・リンドン」 でもクラシックが使われてしみじみとした情感をただよわせている。
「2001年」 ではやはりキューブリックの感性がこの曲を選ばせたというしかない。
キューブリックの影響のせいだと思うけど、その後日本の黒澤明も自分の映画で既成のクラシックを使ったことがある。
こちらはあまり感心しなかったから、やっぱり誰でもできることじゃないのである。

キューブリックは 「2001年」 のBGMを、当初は作曲家のアレックス・ノースに依頼するつもりだったという。
経歴を調べると、ノースという人はエリザベス・テイラーの 「クレオパトラ」 や、キューブリックの 「スバルタカス」 なんて映画の音楽を担当しているから、それなりハリウッドでは有名な人だったらしいけど、最終的にキューブリックは彼の書いた下書きやスコアをボツにしてしまった。
ノースにとっておもしろはずはないから、彼も腹いせに?ミスマッチを非難している。
しかしいまでは少なからぬ人たちが、少なくともわたしにかぎれば、どこで 「美しく青きドナウ」 を聴いても、とたんに宇宙空間とそこを飛び交う人工衛星やスペースシャトルを連想してしまう。
「2001年」 はその圧倒的な重量で、ローラーのように非難や中傷を押しつぶし、平らにならして、クラシックな円舞曲を未来を描いたSFと同化させてしまったのである。
キューブリックの勝ちだ。

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