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2011年3月22日 (火)

マルタ紀行/聖ヨハネの斬首

ヴァレッタの聖ヨハネ大聖堂には、カラヴァッジョの有名な 「聖ヨハネの斬首」 という絵がある。 写真撮影はもちろん禁止なんだけど、ネット上にはこの絵が氾濫している。
いいのかい、著作権はと心配になっちゃうけど、カラヴァッジョ本人から告訴されるおそれはなさそうだから、わたしもそのうちのひとつを引用する。

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ご覧の通りの絵である。
ずいぶん片寄った絵じゃねえかという人は芸術がわかってないのである。
わたしの撮った写真にも、主題を片寄せて空白をいっぱいにとったものがあるので、こういうのがすばらしい構図なのだ。

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あまり幸せを感じない絵だけど、 これは新約聖書の中の、聖人ヨハネが首をはねられる場面を描いたものである。
そのころサロメという踊りの上手な娘がいて、この娘は少々サドッ気があったのか、おつむがよわかったのかよく知らないけど、母親からヨハネの首をもらってきなさいといわれて、いいわよと安請け合いしちゃった子である。
画面左はしの、踊り子というより女中か小間使いにしか見えないのがサロメで、これからかかえたお皿の中にヨハネの首を入れ、持って帰って母親に見せようという魂胆。
現代の女の子なら卒倒しかねない残酷な場面だけど、当時は人間の首はいともかんたんに胴から離れたらしく、肉屋でニワトリの首を絞めてもらっている図と考えても大差ないみたい。

劇的な場面だからサロメを描いた画家は多いけど、それぞれその時代の風俗で描いたものだから、聖書の時代の踊子には見えないサロメが多いの対し、モローとビアズリーという2人の画家のサロメは、聖書の風俗に忠実かどうかはべつにして、ひじょうに官能的で魅力的である。

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どうも話がサロメのほうにばかり行っちゃうな。
3段目の画像は、同じカラヴァッジョが描いた 「斬首」 のつぎの場面。 こちらの絵ではサロメが正面を向いており、なかなかの美人であることがわかる。

人間がほとんど実物大に描かれているこんな不吉な絵を、教会に飾ろうという神経がわからないけど、これもガイドのYさんは明快に解説する。
これはカラヴァッジョがマルタ騎士団のために描いた絵であり、当時の騎士たちは敵対するイスラム勢力と連日命をかけた戦いを続けていた。
彼らが死をおそれないように、死ねば自分たちも聖ヨハネのおはします天国へ行けるのだと、勇気を鼓舞するための絵なんだそうである。

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そういわれてみると、大聖堂のまわりには骸骨のような死をモチーフにした彫刻もめだつ。
これらはすべて当時の騎士たちのおかれていた、死と隣り合わせの過酷な生活を物語るものだそうだ。

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