マルタ紀行/マルサシュロック再訪の3
そのうち欧米人の観光客がぼちぼちやってきた。
彼らもマルサシュロックの青空市場が目当てだったのかもしれないけど、それほど失望しているようではなかった。
彼らの大半は老人で、古い街並みや石の神殿を観てまわるよりは、暖かな日差しの下でのんびり海をながめているほうがよっぽど楽しいのだろう。
老人たちといっしょに日なたぼっこをしているうち、沖から小さな漁船がもどってきた。
これから水揚げをするかもしれないから、急いで岸壁でその船をまちかまえる。
それまで岸壁でごろりと横になっていた老犬が、よったりと起き上って、わたしと同じように漁船を迎えに出た。
船に乗っていたのは老漁師と、彼の娘か息子の嫁でもあるのか、ジヤージーの上下に長靴をはいた30代くらいの女性である。
港に着くと女性はさっさとどこかへ行ってしまったが、老漁師はそのまま船に残って網から獲物をはずしはじめた。
漁の規模としてはせいぜい刺し網ていどで、獲物もたかが知れているけど、港で水揚げを見ていておもしろいのは、いろんな魚がいっしょくたにかかる定置網や刺し網などで、一本釣りや延縄などだと、獲れるものはだいたい決まっているからおもしろくない。
どれどれと、わたしは老人の手もとをのぞきこむ。
この船の獲物はヒメジ、アジ、キス、ニシン、ホウボウ、カサゴ、小型のハタ、タコなどの小物ばかりだった。
わたしが伊豆の海で見たことのある魚ばかりで、当然かもしれないけど、さすが地中海っていうような怪魚、珍魚はいなかった。
それでもこういうものを見ているのはとても楽しかった。
ヤケクソで海辺のベンチにすわったなんて書いたばかりだから、さぞかしマルサシュロックに失望したんだろうと思う人が多いかもしれないけど、それは反語で表現しただけで、じつはこのあてもなくこの漁港をふらついていたときが、わたしにとってマルタでいちばん楽しい時間だったといっていいくらいである。
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