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2011年7月10日 (日)

白鯨

1000

日曜日の新聞は書評が多いけど、その中に 「読みたい古典」 というコラムがあって、今日のそれはハーマン・メルヴィルの大海洋小説 「白鯨」。
読者の感想と、このブログで 「あまり好きじゃないけど」 と書いたばかりの池澤夏樹サンの解説をまじえたコラムである。
池澤サンの解説は妥当なものだし、この小説が読みにくいというのも、まあ、ふつうの読者にはその通りだろう。
コラムの中では池澤サンも、英語圏の作家でさえ当惑をおぼえた小説であるといって、サマセット・モームの言葉を取り上げている。
わたしは 「白鯨」 と同時にモームのファンでもあるので、これにひとこと付け加えると、当惑をおぼえた「白鯨」を、モームは 「世界の十大小説」 のひとつに数え上げているのである。

わたしの場合、まだ小、中学生だったころに、まず子供向けの雑誌に連載されていた 「白鯨」 を読み、もうすこし上級に進んでからは、当時からはげしいロマンチストであったせいか、あるいはやみくもに海にあこがれていたせいか、わりあい順調にステップアップすることができた。
この小説には本題とは関係ないエピソードや、聖書・古典からの引用が多く、また船乗りたちのリアルな生活の描写と、神話のような寓意性に満ちた主テーマが錯綜していて、難解といえばたしかに難解。
こういう本を読む場合、まずいちばんおいしい部分を食べ、あとはヒマをみて、徐々にその他の部分をかじっていくという読み方がふさわしい。

大人向けの 「白鯨」 として、わたしがまず読んだのが阿部知二の訳本で、その素晴らしい訳文にいっぺんにとりこになってしまった。
このとき小さな海鳥のむれが、まだ口をひらいている深淵のうえを、叫びながら飛びまわった。深淵の険しい側面には悲しげな白浪が打ちつけた。それからすべては崩れ、海の大きな屍衣は、五千年前にうねったと同じようにうねった。
この五千年前というのはノアの方舟時代のことだそうだ。

阿部知二の訳本には (文庫本のほうにも) イラストがついている。
出所がよくわからないけど、米国で出版されたこの本についていた版画の転載のようで、これがまたなかなか味わいのあるものである。
つい最近になって、また無性にこの本が読みたくなり、あわてて本屋に走って、つい別の作家の翻訳本を買ってしまった。
するとこのイラストがないってんで、翌日また、わざわざ阿部知二版を買いに行ったのだから、わたしも無駄なことをするものだ。

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