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2011年8月 7日 (日)

周恩来

NHKのBSが4回に分けて周恩来のドキュメンタリー番組を放映した。
現代の中国は毛沢東や周恩来の時代とぜんぜん異なる国になってしまったから、なんで今ごろといいたくなる番組だけど、ま、かって中国に凝ったわたしとしてはちょいとひと言。

周恩来は毛沢東につかえた共産党幹部として、鄧小平と比較されることがある。
鄧小平が信念を曲げない、おかげで3回も失脚した人として知られるのに比べて、周恩来のほうは、時勢にあわせてころころと立場を変えた風見鶏なんていわれる場合もある。
でもそりゃちょっとひどすぎると思う。
なぜか。
彼の革命家らしからぬおだやかな風貌と紳士的ふるまいが、とてもそんな裏表のある人に見えないから、なんていうと、人間を顔で判断するのかといわれてしまいそう。
外見ではなく、わたしは周恩来という人が、暴走する毛沢東にあるていどブレーキをかけるのに功のあった人なんじゃないかと思っているからである。
またその開明的でグローバルな考え方は現代の中国に通じるものがあり、鄧小平によってなされた改革開放の基礎は、じつは周恩来にその発端があるという見方もできるのである。

番組でも描かれていたけど、毛沢東の意をうけた紅衛兵が 「四旧打破」 なんて叫んで古い文物をかたっぱしから破壊しようとしたとき、彼はそれを可能なかぎり救おうとした。
中国には歴史的遺物が数えきれないほどあるから、彼がいなかったら、多くの寺院仏閣や故宮の美術品でさえ、その運命がどうなっていたかわからない。
紅衛兵の騒動はいまふりかえると民衆の集団ヒステリーみたいなものだったけど、周恩来はそんな大勢にあらがう数少ない政治家だったのである。

暴君をいさめるのは、ヘタすると自分の首が飛ぶこともあるからむずかしい。
むかし、殷の紂という王様の乱暴をいさめた大臣は、お腹を割かれて内臓をひとつひとつチェックされたなんて前例もある。
そんな自らの危機を回避しつつ、右派と左派の中間に位置し、毛沢東の横暴な決断を、可能なかぎりソフトランディングさせるのは、綱渡りみたいにむずかしいことだったにちがいない。
周恩来をみていると、まるで暴走する主人の尻拭いをしながらあとについてゆく、気のドクな中間管理職みたいである。
しかしそんな彼の苦労は報われたのではないか。
彼は毛沢東とほぼ同時期に亡くなったけど、このドキュメンタリーが、現代の中国で、中国人の協力のもとに作られたということは、周恩来がこの国で一定の評価をされているということの証明である。

わたしは文化大革命をリアルタイムで眺めていた世代なので、この番組を観ていて中国が体験した激動の時代を思い出した。
劉少奇、彭徳懐、林彪など、騒乱の中で命を落とした人を思い出し、また地方に下放された多くの中国人の変転した人生を考えてしまう。

わたしが中国で知り合った女医さんは、少女のころ農村に放逐され、ヤオトンという洞窟みたいなところで生活したことがあると、じっさいにその旧居を見せてくれた。
天井から虫が落ちてきたんだよねと彼女はいう。
日本人のわたしは平和でのんきな人生しか体験してないけど、中国のごく最近の歴史は、まるでロマンチックで波乱万丈の大河小説を読んでいるようだ。

そんな中国が、いまや米国をしのぐような世界の大国だ。
格付け会社の評価でも落ち目のアメリカより中国のほうが格が上だという。
コレって中国の格付け会社による評価だけど、なんかわたしもそんな感じがしているのである。

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コメント

S&Pによる国際格付けでは、
中国はAA-
米国はAA+。
そのうち中国が追い抜くことは確かでしょう。アジアの時代です。

でも、あの鉄道事故を見ると、なんともあきれ果ててしまいます。
激しい変動期が繰り返し来るのでしょう、まだまだ時間がかかると思うのですが。

投稿: タマ | 2011年8月 7日 (日) 08時45分

いまのアメリカの経済状態をみると、日本と同じか、へたすりゃ日本より悪いんじゃないかと思ってますけどね。
にもかかわらず格付け会社は、2、3日前まで、まだアメリカの格付けをぜんぜん引き下げない。
日本やヨーロッパ諸国が相手だと問答無用で引き下げるくせに、アメリカだけはいつまでも最上位だなんて、これってなにかの陰謀じゃないかと思っていました。
さすがに気がひけたとみえと、S&Pがようやくほんのちょっとだけ引き下げた。
朝日新聞の見出しにもあったとおり、「ドル没落への序章」です。
基軸通貨ってのは、そのときそのときで一番隆盛を誇る国の通貨が自動的になるもんでしょう。
さて、おつぎはどこの国の通貨がって、わたしはたいして心配してませんけどね。

投稿: 酔いどれ李白 | 2011年8月 8日 (月) 07時07分

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