創作衝動
わたしは作家じゃないから無責任に言ってしまうけど、世の中には、名前はよく知られているのに、書いた本がぜんぜん売れない作家というものがいる。
たとえば芥川賞をもらった××や朝日新聞の御用作家といわれている○○などと、日本にもこういう作家は少なくないようだ。
そんな作家を描いた 「創作衝動」 という抱腹絶倒の短編が、皮肉屋のサマセット・モームにある。
主人公は年増の、あまり美人といえない女流詩人なんだけど、彼女が書く詩は世評が高いにもかかわらず、とても作家としてのメンツを保てるほどの生計の足しにならない。
つまり売れないのである。
そんなわけで彼女の生活は、もっぱらしがないサラリーマンの夫に依存することになる。
高名な詩人と、しおれかけたような中年亭主の組み合わせがまずおもしろい。
英国の話だから家庭で開くパーティなんかも出てくる。
彼女はあまり気にかけてないが、パーティの費用も全部亭主が出しているのである。
パーティに集まるのは詩人のとりまきの文学仲間や出版関係者などで、話題もけっこう高尚なものが多い。
彼女はそんなメンバーの中で女王然とふるまっているんだけど、もちろん彼女の本は売れないのである。
ある日、しがない亭主が家政婦と駈け落ちしてしまう。
ここではじめて女流詩人は、自分の生活がぜんぶ亭主に依存していたことを悟るのである。
彼女は亭主のところへおしかけて家にもどるよう懇願するんだけど、平凡きわまりない生活を生き生きと楽しむ亭主の家庭を見せつけられて、すごすごと退散する。
しかし、こんな事件が創作衝動となって、彼女は新しい小説を書く決意をするのである。
「創作衝動」 の最後は、計算され尽くしたしまらないセリフで終わっているんだけど、それがまたおかしい。
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