山尺の2
奥多摩に 「百尋の滝」 という名瀑がある。
奥多摩では最大の滝らしいけど、ちょいと車で訪ねるには山奥にあるので、登山者以外にはあまり知られてないようだ。
この滝へ行くには、ふつう川苔山への往還に寄るのが一般的。
滝までなら、奥多摩駅からバスに乗り、下車してから片道2時間もかからないので、登山コースとしてはハイキングのレベルだ。
それでもそんなところへ、冬のさ中に行こうという人間はあまりいないだろうから、ひょっとすると素敵に孤独な登山を楽しめるかもしれない。
前項で述べたわたしの 「山尺」 を確認するために、ひさしぶりに重い腰を持ち上げてみた。
わたしは過去に何度か百尋の滝を訪れている。
友人たちと川苔山登山の帰りに寄ったり、ひとりで滝を見るために出かけたこともある。
過去の記録を調べてみたら、ひとりで出かけたときは、奥多摩駅から日原街道をてくてく歩いて、川苔谷林道の入口の川乗橋バス停までほぼ1時間かかっていた。
そこから林道を歩くことまた1時間足らずで、細倉橋という登山道の入口に着く。
ここからが本格的な渓流ぞいの山歩きだけど、百尋の滝まで1時間もかかってない。
ただし、これは20年以上まえの9月のことだ。
今回は冬のまっ最中だし、最近のわたしはすっかり書斎の人、いやパソコンおたく化しているから、山尺もそうとうに変わっていることだろう。
今回は自家用車でバス停まで乗りつけた。
だからあとの行程は、滝の下で弁当を食べても往復4時間というところだ。
孤独な登山のつもりでいたら、わたしが林道入口に着いたとき、ちょうど路線バスが到着して、同じ時間帯に4人ほどの登山者が前後することになってしまった。
ただし孤独を愛するのはみな同じとみえて、すべてひとり歩きの人ばかりで、会話する者はいない。
30分も歩くうちに彼らはひとり残らず先行して、ようやくわたしひとりの孤独な登山になった。
同時にわたしの山尺がいかに長くなっているかしみじみ。
林道は舗装された車道だけど、細倉橋から先は本格的な山歩きコースになる。
それでも山尺が若いころのままならなんてことのない場所である。
しかし前夜まで10年以上もパソコンおたくを続けていたわたしは、そのうち頭がくらくらしてきた。
足をとられたら滝つぼにまっさかさまなんて、思ったより危険な個所もあった。
わたしは2、3年まえに激しいめまいにおそわれて病院にかつぎこまれたことがある。
ヤバいなあと思う。
登山の最中にヤバいと思ったときの正解はなにか。
つまりこの記事に、かんじんの百尋の滝の写真がないのはそういう理由なのだ (どうしても滝を見たい人はネット上にたくさん見つかる)。
わたしの山尺は想像以上に増大していたのだ。
しかしわたしはくじけないぞ。
バス通りから見る日原渓谷の冬の流れの美しさは、たいらな場所からながめる山の景色も捨てたものじゃないということをようく教えてくれた。
山尺がどんなに増大しても、山歩きの楽しさが失われることはゼッタイにないのだ。
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