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2012年2月15日 (水)

共食い

芥川賞を受賞した田中なんとかさんの 「共食い」 っていう作品を読んでみた。
最近のわたしは小説というものをあまり読まないんだけど、このなんとかさんの、どんぐり眼でストーカーみたいな、ちょっと異様な風貌が気になったもので。
親のすねかじりで、いちども仕事についたことがないという、その温室野菜みたいな経歴にも興味があったし、そういう人に小説が書けるならワタシにも書ける、と思ったというのは冗談だけど。
仕事についたことがないという点が気に入らなかったのか、石原慎太郎さんもサジを投げて、芥川賞の審査員を辞任してしまったらしい (というのはわたしの想像です)。

作品の内容は、こういうものに興味がある人はすでに知っているだろうし、興味のない人は知りたいとも思わないだろうから、説明しても仕方ないんだけど、ひとことでいうとセックスと内向した暴力である。
文章の中には上手いなと思わせる部分もあったし、無理して文学的な表現をしたなと思える個所もある。
ただ、セックスと暴力を “文学” って考えるのはどうもいただけない。
最後に息子の彼女をレイプした父親を、母親が包丁で刺すことになるんだけど、母親は息子と彼女がかなりふしだらな関係だったことを知っていたはずで、いったいその殺意はどこから湧いてきたのだろうと思ってしまう。
復讐やあわれみというには、息子の彼女に同情すべき余地があまりないのである。

冒頭に昭和63年という日にちが出てくるけど、戦後まもなくの設定かと思ったくらい乱雑で汚らしい街が背景で、現代的なものはほとんど描かれていない。
1988年といえばワープロが隆盛で、わたしも愛用したおぼえがあるけれど、そういうものはいっさい出てこない。
安アパートに居座って近所の男たちを相手にしている娼婦なんて、昭和の中間あたりまでの風景じゃないか。
団塊の世代なら70年代、かぐや姫が 「神田川」 を歌っていたころを思い浮かべるかもしれない。
どうもこのへんが外の世界を知らず、内にこもって書いた小説の限界なのかも。

しかしまあ、最近はあまり小説を読まず、最近の傾向や読者の嗜好も知らず、田中なんとかさんの他の作品も知らないわたしが、これ以上この人の作品についてごちゃごちゃ批評するのはやめとこう。
この作者を見ていると、なんだかイジメの対象になりそうなオタクっぽい人に見えるので、わたしまでもが加害者の一員に加わって、ああだこうだいうのは気がひけるのである。

若いころならともかく、最近のわたしはこういう小説を読みたいとは思わない。
わたしが読みたいのは・・・・・ たとえばアップルのジョブズのことを取り上げたテレビ・ドキュメンタリーの最後に、こんな表現があった。
『(彼の死によって) 世界屈指の大企業アップルは孤児になった』
これが小説なら、わたしはぜひ読みたいと思ってしまうのである。

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