イスタンブール/絨毯屋の客引き
ブルーモスクやアヤソフィアのあたりをぶらぷらしていると、しょちゅう日本語で話しかけられる。
絨毯屋の客引きである。
ワタシは日本の△△にいたことがあります。
ワタシの兄弟 (あるいは親戚) が日本の○○に住んでいます。
こういうのが彼らのおおむね常套句。
イスタンブールに到着した翌日、朝の7時まえに散歩にいったら、もう話しかけられた。
早起きは感心だけど、わたしも大陸中国に何度も旅をして、執ような中国商人を振り切ってきたつわ者だから、そういう連中をあしらうすべは心得ている (つもりである)。
英語のわからないわたしにとって、たとえばイスタンブルカルトを買うときのように、うまく活用すれば彼らにも利用価値はあるのである。
街を歩いていたらパク君という大きな若者に話しかけられた。
絨毯ならダメだぜというと、なんでわかりましたかと、なかなか正直そうである。
なんでって、昨日からそこらを歩くたんびに絨毯屋に呼びとめられているぞというと、ワタシをそういう人たちと一緒にしないで下さいという。
しないで下さいといったって、図体の大きさ以外はけっきょく同じようなものだったけど。
いまから地下宮殿を見学に行くんだといって逃げようとしたら、それならワタシの行く方向です、いっしょに行きましょうという。
地下宮殿を見学したあと、人ごみにまぎれて逃げようとすると、出口のあたりで見張っていたらしく、やあ、待っていましたとほがらかにいう。
それじゃ見るだけだぞといって彼の案内する店まで行ってみた。
大きな絨毯がたくさんぶら下がっている部屋で、チャイをご馳走になりながら話をする。
ここであなたに会ったのもなにかの縁ですと勝手に決めつけるから、つまりアラーの神のおぼし召しってやつかいと返事すると、やっこさん、アハハと笑った。
わるい人間じゃなさそうだ。
もっとも、イスタンブールにほんとうにタチのわるい客引きはあまりいそうもない。
彼らにとって、とにかく店に引っ張り込めば、売れる売れないはべつにして、ひとつ仕事をこなしたことになるらしい。
怒らせちゃまずいけど、適当に話し相手になって、いいかげんにあいづちを打って、最後にはっきり拒絶すれば、それ以上強引に売りつけようとする客引きはあまりいないようである。
わたしは2年まえのトルコ旅行で、絨毯屋の講釈をとっくに聞いているから、最高級品はヘレケだろう、見方によって色が変わるんだろう、手でさわると縫い目がどうしてこうしてと、先手をうって知識をずばずばと披露してしまう。
そんな大きなものを買えるわけがないともはっきりいう。
小さなのもありますというから、小さな絨毯をなにに使うんだと訊くと、風呂上がりの足拭きなんかにいかがでしょうだって。
そういうものはわたしはいつも近所のスーパーの、千円か2千円のもので間に合わせているよと答えると、絨毯は断念したのか、奇妙なものを持ち出してきた。
横7、80センチもある長方形のズタ袋みたいなものである。
ごてごてとした色のぶっ太い毛糸で編んであって、しかも毛糸のあちこちがほつれているようなだらしないものである。 まん中に開口部が2つある。
なにに使うんだいと訊くと、品物を入れてラクダの背中で振り分け荷物にするのだそうだ。
日本にラクダなんかいないぞというと、部屋の壁にかけて物入れにするといいでしょうという。
そんなものは要らんと取り合わないでいると、また話題を変えて、自分は29日に日本のテレビに出演しますと言い出した。
なんとかいう司会者の名前が出てきたけど、わたしは民放の番組はほとんど観ない人間だから、そういわれてもサッパリ。
帰国したあと、29日になってテレビ欄を探してみたら、民放の番組にトルコを旅するものがあった。
しかしわたしはその日は用事があったし、録画もしなかったからぜんぜん観られなかったのである。
チャイを飲み終えて店をあとにした。
客引きをアタマから敬遠する人も多いけど、ぜったいに買いませんとはっきりいえない人、あるいは見栄っぱりですぐ高価な品物に手を出す人でないかぎり、イスタンブールの客引きはけっこう楽しい連中である。
写真は街で見かけた絨毯を編む女性。
彼女らに敬意をあらわすけど、日本でも手編みの絹、麻、木綿等の製品は、もはや実用品ではなく、芸術品、民芸品、骨董品の範疇に入るべきものになってしまった。
貧乏人においそれと手の出せるものではない。
パク君の顔写真を載せるのはまずいかなと思ったけど、まあ、いいや。
どうせ日本のテレビに出るんでしょ、アンタ。
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コメント
先週ここの店に連れてこられビールご馳走になって帰りました。彼頑張ってますねー
投稿: トルコ | 2015年8月 1日 (土) 01時27分
へえ、パク君、元気でしたか。
わたしもまた来年行ってみようと考えてますけど、会えるかしらね。
投稿: 酔いどれ李白 | 2015年8月 1日 (土) 07時34分