イスタンブール/宴のあと
セマーは50分ほどで終わった。
ビールもワインもなくなった。
帰る客もいた。
わたしも帰ろうかと思ったけど、店のオーナーのバイラム氏の姿が見えない。
彼にひとこと挨拶してから帰ろうともたもたしているうち、なんだかにぎやかなお囃子が始まった。
演奏はテープのようだったけど、これに合わせて2階から半裸の美女がベリーダンスを踊りながら下りてきた。
このレストランではまだショータイムが終わったわけではなかったのだ。 帰らないでよかった。
それにしてもべリーダンスは官能的な踊りである。
イスラムでは女性が肌を見せることを禁じているくせに、その一方でこういう露出過多の踊りが存在するってことは、ダブルスタンダードではないか。
そのへんをどう考えるのかと、トルコ政府関係者や宗教指導者に問い詰めてみたいけど、もちろんそんな野暮をいってヤブヘビになっても困る。
このさいのわたしは、やっぱり無心で鑑賞するにかぎるのである。
ベリーダンサーはひとりだけだったけど、それが終るとさらにショーの続きがあった。
今度はセマーのときとは異なる、ラフな服装の3人の楽士があらわれて、バイオリン、鼓のお化けみたいな打楽器、琴のような民族楽器の3種で、これは宗教とはぜんぜん関係のない軽快な音楽を演奏し始めた。
おそらく、ロマ (ジプシー) たちの伝統音楽だと思うけど、思わず踊り出したくなるような楽しい音楽である。
バイオリンを弾く若者が演奏をしながら客席をまわり始めたので、慌ててわたしもチップの用意をした。
こういう場合はいくらチップを払わない主義のわたしでも、ちゃんと出すのである。
彼らの演奏が終わるころ、ようやくバイラム氏があらわれて、おおげさにわたしの肩を抱いて、よく来ましたねという。
こういう挨拶に馴れてない極東の島国の住人としては、とまどうことしきり。
すぺてのショーが終ると、バイラム氏に案内されて店の外のテーブルに移動した。
そこに先ほどの3人の楽士が集まっていて、ここでは仕事をはなれ、まったく自分たちの余暇として楽器を鳴らしていた。
ここでトルコ・ワインを1杯ご馳走になる。
わたしがうぶな若い娘だったら、シンデレラになったような気分だっただろう。
楽士たちと同席して、くつろいで音楽を聴くなんて、じっさい映画のワンシーンのようである。
まだチップを絃にはさんだままのバイオリンを弾く若者は、見たところまだ少年のようである。
彼はいくつですかとわたしが訊くと、バイラム氏が答えて16歳だという。
黒い髪の、まだ幼さの残るその風貌は、おそらくロマ (ジプシー) の末裔にちがいないと思うけど、さてみなさんはどう思う。
こんな話をしても信用してもらえないかもしれないから、わたしもいっしょに記念写真を撮っておいた。
彼らと別れて、いくらか千鳥足でホテルにもどった。
ここはイスタンブール、あこがれのトルコの大地。
わたしがひとり旅でなかったら、はたしてイスタンブールでトルコ・ワインをご馳走になるなんて僥倖に出会えただろうか。
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