上海
NHKのBSで放映している 「世界ふれあい街歩き」 というテレビ番組に、昨夜は上海が出てきた。
わたしは上海という街が好きで、これまでに10数回も出かけている。
はじめて出かけたのは1992年だから、もう20年も前のことだ。
当時は鄧小平の改革開放がようやく軌道にのったころで、まだ人々がおずおずと市場経済へ足を踏み出したころだった。
そのころの上海には現在のように高層ビルが乱立しているわけでもなく、黄浦江ぞいにそびえる戦前からのビルがまだその存在感をきわだたせていたから、わたしはここでもぎりぎりで古い時代をのぞき見ることのできた世代ということになる。
わたしは同じ中国の都会でも、北京にはあまり興味がない。
なんで上海が好きなのか。
つらつら考えると、冒険小説の舞台にふさわしいロマンがあったからってことらしい。
かっての上海には租界というものがあり、それは中国にあって中国ではない不思議な空間であり、その内部には、特権階級の欧米人がおり、秘密結社やギャングや日本の間諜が暗躍し、よごれた苦力たちがうごめき、阿片窟があり、金髪の娼婦がおり、グロテスクな見世物があった。
上海にはまさに魔都という名にふさわしい都市だったのである。
魔都なんていう言葉はどうも人間をひきつけるものらしい。
そのころの上海の悪名は欧米にまで鳴りひびいていて、その名前は書物や映画や演劇にしばしば登場する。
『上海リル』 という歌で知られるアメリカ映画「フットライトパレード」や、本邦の 「上海バンスキング」 は、そんな上海を舞台にした物語だ。
日本の流行歌、ついいま熱中している懐メロになっちゃうけど、そこでも 『上海帰りのリル』 だとか 『夜霧のブルース』 なんて、みんな上海をテーマにした歌だ。
むかしの上海では寝ているうちに拉致されて売っぱらわれちゃうということがあったみたいで、英語には Shanghaing=拉致する なんて単語もあるそうである。
そんな歴史を知らない人には北京も上海も同じようなものだろうけど、なにしろわたしはロマンチストなのだ。
わたしが上海を訪ねているあいだにも、この街ははげしく変わっていった。
最初に出かけた1992年から、最後に訪問した2008年まで、わたしははからずも、ひとつの都市が、この場合は北朝鮮の平壌ような閉鎖された都市から、ニューヨークのような繁栄と退廃の近代都市に変貌するまでを、ずっとながめ続けてきたことになる。
前述のテレビ番組の中に、人民公園わきの上海美術館が出てきた。
なんでも租界時代は競馬場のクラブハウスだった建物そうだけど、わたしが最初に行ったころは、この建物はたしか華僑飯店というホテルだったはず。
そのころはまだ市内に、戦前からの建物がたくさん残っていたのである。
近代化されて古い建物が消滅してしまうのは嬉しくないけど、番組を観るかぎり、路地の奥にはまだまだ古い中国人の生活はたくさん残っているみたいだ。
あ、またひとっ走り上海に出かけたくなった。
なにしろいまでは上海は、日本からもっともお手軽に出かけられる外国のひとつなのだから。
いちばん上の写真は、中央に小さく見えるのが建設中の東方明珠テレビ塔。 現在のこの付近と比べると、まさに隔世の感がある。
つぎの2枚はいずれも20年前の上海市内にて。
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