レーピン展の2
「皇女ソフィア」 はレーピンが想像で描いた絵である。
想像で描いた絵はほかにもあって、たとえば自らが手を下した息子を抱きしめるイワン雷帝、死の直前のゴーゴリーを描いたものなどがある。
これらの人物も生まれた時代が違うから、レーピンがその現場にいあわせたわけじゃないけど、いずれも人間の狂気を描いてコワイくらい。
レーピンという画家は想像でもって人間の本質を再構成する名人だったようだ。
今回の展覧会では画家と同時代の人物の肖像画もたくさんあったけど、それはあまりおもしろくない。
ただアル中のムソルグスキーの絵のように、肖像画の範疇をはみだした肖像画だとか、ミスター・トレチャコフやレーピン本人の自画像など、絵以外の部分で興味のある肖像画がいくつかあった。
これってルノアールの真似じゃないのかといいたくなるような、屋外の陽光の下で描かれた印象派ふうの絵もあり、そうか、彼はフランスの印象派にも影響を与えていたのかと、あまり本気にされちゃ困るけど、そんなことを思いたくなる絵もあった。
今回の展覧会でうれしい誤算は、「トルコのスルタンに反抗的な手紙を書くコサックたち」 という、レーピンの絵の中では、わたしが以前から観たいと思っていた絵があったこと。
トルコのスルタンが子分になれといってきたのを、ふざけんな、子分にしたけりゃ手をついてお願いに来いと、コサックたちが書記に返事の手紙をけしかけている図である。
頭はあんまり利口そうじゃないけど、肝っ玉だけは誰にもまけない、ロシアでも名うての反抗分子であるコサックたちが、そのひとりひとりまでじつに生き生きと描かれている。
ほかにわたしがぜひ観たいと思っているレーピンの絵には、「ヴォルガの船曳き」 や 「復活大祭の十字架行」 があるけど、「ヴォルガ」 についてはミニサイズの習作が、「復活大祭」 については絵の中の主要人物だけをクローズアップした絵があって、まわり道だけど最終作品への期待をふくらませるのに十分だった。
これらの絵については、そのうちロシアに行ったときの楽しみにとっておこう。
Bunkamuraには失望させられることもあるけど、今回のレーピン展は満足できるものだった。
| 固定リンク | 0
「美術館をめぐる」カテゴリの記事
- 松方コレクションの2(2019.07.29)
- 松方コレクション(2019.07.24)
- クリムト(2019.06.25)
- モロー展(2019.06.03)
- カトー君の2(2019.01.13)
コメント