ミキの1
夕刊にシリーズになった小さなインタビュー記事があって、いまのそれはマンガ家のみつはしちかこサン。
それで思い出したけど、なぜか彼女の「小さな恋のものがたり」というマンガが部屋にある。
わたしが買ったものじゃない。
わたしはそんなマンガを読むほど乙女チックな男じゃないのである。
それじゃなんでそんな本が部屋にあるのか。
ずっとむかし、いまから40年ちかく前になるけど、そのころわたしはトラックの運転手をやっていて、大宮にある運送会社の寮に寝起きしていた。
寮といっても会社が借り上げた安アパートで、いちおう6畳ひと間の個室である。
この寮にWという同僚の運転手がいた。
わたしのほうが年上だったこともあって、彼はわたしを兄貴分と呼び、なにかと持ち上げてくれたから、ここでの生活はまあまあ気楽なものだった。
なんの展望も希望もない生活だったけど、わたしはいまでも人生のこの大宮時代をなつかしく思い出す。
そんなアパートにある日、若い娘が転がりこんできた。
なんでもWが仕事で地方に行ったとき知り合い、冗談で東京に遊びに来いよといったら、本当にやってきてしまったのだそうだ。
ちょっと小太りというタイプだったけど、男好きのするかわいい娘である。
わたしは感心した。
なんで感心したかというと、こういう奔放な性格の娘は、映画や小説の世界にはよくいるけど、現実にわたしの周辺にあらわれるとは思っていなかったから。
ミキというこの娘はアパートでWと同棲して、そのうち自分でも近所に仕事をみつけて働きだした。
このまま無風状態で推移するものとばかり思っていたら、まもなくこの娘は、奔放というのか淫乱というのか、それとも自堕落というのか、その本性をあらわした。
Wが長距離仕事で部屋を留守にすると、ミキはわたしの部屋へ、××クン、遊びましょといってやってくる。
まあ、わたしのことはさておいて、じつは会社の寮、つまりわたしたちのアパートに、もうひとりHという運転手が居住していた。
彼女はHのところにも、遊びましょと押しかけていたらしい。
Hは惚れやすい男だったから、ミキとすぐいい仲になってしまった。
さてどうなるか。
世間によくある三角関係である。
残念ながらわたしはほんの1年ほどで、この会社を辞め、東京へまいもどってしまったから、その後のことはよく知らない。
ただWもミキをもてあましていたようなところがあったから、刃傷沙汰にまでは至らなかったようだ。
これだけだといいたいけど、これで終わりじゃない。
まだみつはしちかこサンのマンガが出てこないし、この話には後日談があるのである。
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