ロシアの旅/水死直前の公爵令嬢
肖像画の中にもいくつか好みの作品がないでもないけれど、いちばん素晴らしいのは、やはり19世紀後半から20世紀初頭の絵だ。
ずっと観ていくと、やがてお目当ての部屋に到達する。
たとえばクラムスコイの 「見知らぬ人」 に出会ったときは、逃げた女房に再会したようで足がふるえた。
彼女とは3回目の出会いで、今回ははじめてその故郷で会ったことになる。
このあたりまでくると、おもわず陶然となりそうな名画のオンパレードだ。
歴史のワンシーンを切り取ったもの、ロシアの一般庶民生活を描いたもの、そして雄大なロシアの風景を描いた一連の作品など、近代にめざめた画家たちの作品が理屈ぬきにすばらしい。
歴史のワンシーンを切り取った絵というのは、たとえばここにあげた絵である。
これは、じつはよく知られた有名な絵で、わたしもどこかで観た記憶があるんだけど、トレチャコフ美術館にいるときは絵の背景を思い出せなかった。
ちょいと見にはきれいなオンナの人が、牢獄か精神病院に幽閉されてうめいているように見えたから、わたしはしばらくまえに日本で観た 「皇女ソフィア」 を思い出した。
同じ題材をべつの画家が、ヒロインを思い切り美人にして描いたものかもしれない。
かほりクンは苦しそうに説明をする。
公爵令嬢という言葉や、ややこしい物語を説明する日本語がなかなか出てこないのである。
で、わたしが彼女に替わって説明する (あとで解説書を読んでわかったんだけど)。
よくみると、このオンナの人はベッドの上に立ち上がっており、ベッドの周囲には水が押し寄せている。
これは、あたしはロマノフ王朝の血筋なのよ、あたしには王位を継承する権利があるのよなんていいだして (現代ならDNA鑑定でいっぺんでウソかホントかわかったはずだ)、ふざけたことをいうなと要塞に収容されちゃった公爵令嬢が、洪水で溺死する寸前を描いたものだという。
軽々しく冗談をいえない場面だけど、解説書によるといちばん信用できない伝説にもとづいているというから、こっちも遠慮なくふざけてしまう。
事実よりもロマンチックな空想にふけりたい人にはとても魅力的な絵だし、死の恐怖におびえる女性がなかなかの美人に描かれているので、わたしの好きな絵である。
レーピンの描いた憤怒の皇女ソフィアがベッドの上でつま先立ちしても、あまりロマンは感じられないと思う。
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