ロシアの旅/第九の波
ロシア美術館にあるのはサロン絵画や歴史大作ばかりではなく、ロマン派や前期印象派などに共通する抒情的なものもあるのだ (後期印象派よりあとの絵もあるけど、わたしの関心外なので無視)。
池のほとりにそまつな舟着き場があり、そこに古風な衣装の女性がひとりで立っている絵、またリンゴやタンポポの花のわきに、後ろ向きの若い娘が佇んでいる絵など、作品についてなんの知識もないくせに、こんな絵を眺めているとほんわりと幸せを感じてしまう。
ある部屋に舟に乗ってあそぶ日本女性を描いた絵があった。
舟のかたちが日本のものらしくないし、ほかにも日本の日常的な光景を描いたにしてはおかしなところがあるから、写真か浮世絵をもとに画家が想像をふくらませた絵のようである。
現在でも日本が登場するハリウッド映画には、この絵以上におかしな日本が描かれる場合があるから、画家をせめる気にはなれない。
彼はヨーロッパの印象派あたりから日本のうわさを聞いて、やむにやまれぬあこがれから日本を描いたものだろうし。
日本の浮世絵が西洋の画家にあたえた影響はと、いきなりナショナリズムに訴える文章になっちゃうけど、ジャポニスムがロシアに浸透したのはいつごろだろう。
ロシアの絵画が西洋の影響を受けることはあっても、ちょくせつ浮世絵を知ったことはなかったみたいだから、この絵を描いた画家も、ヨーロッパの印象派を経由し、遠まわりをして日本に関心を持ったんじゃないだろうか。
小さな島をめぐって、あれはうちの領土だなんてほざくより、日本人の美意識はモネやゴッホやゴーギャンにさえ影響を与えたんだとエバるほうが、よっぽどナショナリズムを鼓舞し、国威発揚に効果かがあると考えるのはわたしだけだろうか。
ほんわり幸せばかりではなく、もうすこしせっぱつまった絵もある。
ロシア美術館のイワン・アイバゾフスキーという画家は、米国のホーマーと同じように海を描いた画家として知られている。
彼の 「第九の波」 という絵は、その悲痛な美しさが、わたしにはジェリコーの 「メデュース号の筏」 を連想させた。
どっちが古いのか。
またつまらんことに興味をもって、調べてみたら、アイバゾフスキーは1817生まれで1900年に死んだ画家、ジェリコーは1791年生まれの1824年死亡だから、ジェリコーのほうが古い。
だから真似した、あるいは触発されたのは、アイバゾフスキーのほうであるとはいわない。
ロシアの画家とフランスの画家が、ぜんぜんべつの発想で描いたっていう場合もあるかもしれないから。
そういえば、一方は極限状況の人間を描いてえげつないのに対し、もう一方は人間なんぞ眼中になしっていう感じの大自然を描き、しかもまもなく希望の夜明けだ。
わたしのいち押しは 「第九の波」 のほうだな。
| 固定リンク | 0
「旅から旅へ」カテゴリの記事
「美術館をめぐる」カテゴリの記事
- 松方コレクションの2(2019.07.29)
- 松方コレクション(2019.07.24)
- クリムト(2019.06.25)
- モロー展(2019.06.03)
- カトー君の2(2019.01.13)
コメント