ロシアの旅/出迎えの人
バスに乗るときイミナさんが運転手に説明しておいてくれたはずだけど、道路ぎわで工事をしているような、妙に雑なところでバスを降ろされてしまった。
200メートルほどはなれたところに人々がごちゃごちゃと集まっているのが見える。
誰かが迎えに来ているとしたらそのへんの気がしたので、そこまで旅行バックをごろごろとひきずって歩いた。
メトロの駅があったから、その出口から近いファーストフードの店のまえにたたずんでみた。
悲しいことに、こちらは迎えの顔を知らないのだから、できるだけ目立つ場所に立って、相手が見つけてくれるのをじっと待つしかないのである。
誰もやって来ない。
いろんな人が目の前を通り過ぎるのに、誰ひとりとしてわたしに声をかける者がいない。
つめたい風がひゅうと吹き抜ける。
さて、どうしよう。
借りたケータイで、教わった手順どおりにイミナさんに電話してみたけど、なぜかつながらない。
どうしよう。
番号はわかっているのだから、そのへんの店に入って、店の人間にかけてもらう手があるなと、いろんなことを考える。
こういう点ではロシア人は親切だから。
30分ほどしたころ、向こうのほうからこちらへ駆けてくる女性がいるのに気がついた。
あれがそうかもしれない。
いや、彼女はわたしの近くの別人めがけて駆けてくるのかもしれない。
そうだったらうれしそうな顔をするのもみっともないしと思う。
その女性はわたしに微笑みかけているように思える。
しかし人違いだったら微笑みかえすのもおかしいしなあと、どっちにでもとれる曖昧な微笑みを浮かべる。
とうとう彼女はわたしの目の前までやってきた。
息せき切った感じで、××サーンとわたしの名をいうではないか。
これがわたしを迎えにきたライサさんという女性だった。
わたしがやっと窮地を脱した瞬間である。
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