ロシアの旅/ヴォルガの船曳き
ロシア美術館でいちばんの目玉は、すくなくともわたしがここでいちばん観たかったのは、レーピンの 「ヴォルガの船曳き」 という絵だ。
わたしは問題作を重点的に観るつもりで、あるところで監視のおばさんにレーピン?と訊いてみた。
さすがはロシアが誇る大画家で、このひとことだけで、おばさんはアッチと指さした。
レーピンというと、狂えるイワン雷帝から赤鼻のムソルグフスキー、宮殿の御前会議のようすから村の祭礼、庶民のダンスパーティ、死刑宣告を受ける罪人、処刑されるオカマたちなど、ドキュメンタリー・タッチの写実的な絵で知られているけど、ロシア美術館で変わった絵を観た。
くわしい背景は知らないけど、「SADKOと海底王国」 という絵で、ひとりの男が浦島太郎のように、海底でお姫様や人魚に出会うという幻想的な絵である。
へえ、レーピンはこんな絵も描いているのかいと感心した。
このブログでも触れたことがある 「トルコのスルタンに反抗的な手紙を書くコサックたち」 という絵を観たときも意外に思った。
この絵は渋谷の Bunkamura でまだ半年前に観たばかりだけど、こんなでっかい絵だったっけ?
渋谷で観たものはもっと小さかったはず。
ひょっとするとレーピンは同じ素材で、大きさの異なるいくつかの作品を描いているのかもしれない。
いずれにしてもロシア美術館にあるのがオリジナルだろう。
大きいだけに迫力も渋谷で観たときより倍増していた。
お目当てのレーピンの 「ヴォルガの船曳き」 は、下級労働者たちの過酷な仕事を描いたものだけど、それじゃ労働者たちはなんでそんなきびしい仕事に従事したのか。
王侯貴族の贅沢な生活をささえるためである。
エルミタージュに象徴されるような超弩級の贅沢をささえるためだ。
そうやってささえた皇帝の宮殿に、自分たちの苦しい生活が絵になって飾られているのだから、こんな皮肉な図式はあまりない。
最後はその 「ヴォルガの船曳き」 に描かれた労働者たちのアップだけど、いずれも無知な庶民というよりは、迫害されている聖人とその信者たちの行進のように見える。
この逆境のなかで平然とパイプをくわえている者さえいる。
怠惰な生活におぼれていた特権階級なんかよりも、崇高ささえ感じられる人物が多いではないか。
あんがいレーピンはそういうものを描こうとしたのかもしれない。
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