ロシアの旅/出迎え
サプサン号を下りると、ホームの上までかほりクンが出迎えに来ていた。
Mさん夫妻は忙しくて迎えに来れないそうで、これからまた彼女のお世話になることになるのだ。
彼女のほうも、これはアルバイトと割り切っているのか、ほかに理由があるのか、わたしみたいなおじさんを相手にするのをいやがるようすはない。
そのまままた格安ホテルのカレトニードボルまで付き合ってもらうことにした。
かほりクンにパンク娘のレイナと交渉してもらって、部屋は以前と同じ部屋に決まり、わたしは荷物をかつぎこむ。
感心なことにかほりクンはけっして部屋の中までは入ってこなかった。
さて、わたしがふたたびカレトニードボルに泊まるのはハプニングである。
ロシアの旅行ではバウチャー方式といって、日本を出発するまえにすべての宿泊先、移動手段を決めておかないとビザがおりないことになっている。
しかしわたしはサンクトペテルブルクからもどったあと、どこへ泊まるかまったく予定をたてていなかった。
たまたま最初に泊まったカレトニードボルが気にいったので、またそこへ泊まることにしたのだけど、こんな自由気ままなことが許されるのだろうか。
路線バスや新幹線による移動も、(イミナさんがやってくれたのかもしれないけど) わたしはまったく事前報告なんかしていない。
わたしの場合、ビジネス旅行というたてまえにしてもらえたせいかもしれないけど、これなら中国やトルコの旅と変わらない、まったくの自由旅行ではないか。
こんな旅が理想なので、機会があればわたしはまた、今度こそ旅行手続きを自分ひとりで何もかもやってみたいと思っている。
しばらくまえに自転車旅行中の日本人が、ロシアで交通事故にあって亡くなった。
「やってくれるね、ロシア人!」 という本によると、たったひとりでロシアの辺境を旅したカメラマンもいる。
ロシアの自由旅行はけっして不可能ではなさそうなのである。
ネット上にロシアの紀行記も多いけど、個人で旅行をした人がいれば、旅のエピソードではなく、出発まえの手続きについて詳細に語ってほしいものだ。
もう暗くなっていたので、帰りはわたしがかほりクンをプーシキン駅まで送っていくことにした。
駅のちかくの喫茶店に入り、しばらく話をする。
ロシアにも日本式の、女の子がわいわい騒いでいるような喫茶店があるのである。
ここで談話しながら、うーむと考える。
どうしてかほりクンはわたしみたいなおじさんに快くつきあってくれるのだろう。
きっと彼女はわたしに恋をしているにちがいない。
とはまちがっても思わないけど、彼女との会話の中にちと気になる言葉も。
かほりクンは5歳まで日本にいて、両親が離婚したあとは母親といっしょにモスクワに住んでいる。
日本にいたころは外国人みたいだというのでいじめられたそうである。
ロシアに来てからはロシア人じゃないみたいというのでいじめられたそうだ。
いじめがどのくらい人間のこころに傷をつけるのかわからないけど、彼女はひょっとするとこころ寂しい子なのかもしれない。
どうも感情をおもてに出さない子なので、わたしはどこかはかなげな彼女をみていろんなことを考えてしまう。
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