ロシアの旅/トロイツキー橋
なにも問題はなかった。
公園をつっきって、ネヴァ川にかかるトロイツキー橋のたもとに立った。
この橋は時間がくると、かっての勝鬨橋のようなはね橋になるそうである。
寒いのに時間がくるまで待っちゃいられないというんで、橋がはねるのは見なかったけど、冬のあいだははねないという説も聞いたことがあるので、それでよかったかもしれない。
橋の長さは500メートルほどあり、両側に歩道もあって歩いている人もいる。
両側の欄干のあいだに、ガス灯みたいな古風な街灯が等間隔にならんでいる。
なんという様式なのかしらないけど、パリのエッフェル塔と同じ人間によって設計されたんだそうだ。
そういわれれば鉄骨を組みあげたところなんか、なんとなくエッフェル塔を横に寝かせたような感じに見えないこともない。
橋の向こう岸はペトログラード島という、ネヴァ川の河口にできた大きな島で、そちら側から橋をわたってくる車が、橋を渡ったところにある交差点で渋滞を起こしていた。
現代という車社会にマッチさせるためには橋の増設が必要だけど、サンクトペテルブルクのようなクラシックな街に、景観をこわさない新しい橋を作るのはむずかしい。
いっそのこと川底にトンネルを掘ってしまえということは、とうぜんプーチンも考えているだろう。
トンネルなら日本の出番かもしれない。
イスタンブールのボスポラス海峡にトンネルを掘ってしまう日本の技術力をもってすれば、ネヴァ川のトンネルなんか赤子の手をひねるようなものではないか。
こうして日露のきずなは深まり、日本人ならノービザで誰でも気楽にロシアを旅できる時代が来ないだろうか。
期待しているけど、それまでわたしが生きているかしらねえ。
橋の下を流れるのはネヴァ川である。
この日は典型的な冬のロシアらしい灰色の曇り空で、橋から見下ろすと川はまっ白に氷結していて、まさに映画 「アレクサンドル・ネフスキー」 で描かれたドイツ騎士団やスウェーデン軍との氷上の戦いを思い出させる (ちなみにネフスキーというのはネヴァ川の勝利者という意味)。
ただ冬期でも船の航行はあるようで、砕氷船がひとすじの航路を確保していた。
カモやカラスが氷の上を飛び交っている。
それほど寒いのに川面には、氷に穴をあけて釣りをしている人が数人。
橋のたもとあたりには氷結していない部分もあり、マガンが群れていた。
マガンは冬になるとわたしの家の近所にもやってくるけど、彼らの中には、故郷はサンクトペテルブルクというのもいるかもしれない。
橋を渡った向こう岸に、金色の、針のように天をさす搭が立っていた。
この塔がある場所はペトロパヴロフスク要塞といって、上から見ると函館の五稜郭のようなかたちをした人工の島だというけど、金ピカのとがった塔というのは、わたしにはあまりいい景色と思えない。
上から見る方法もない。
橋を渡ったあたりからサンクトペテルブルクの街をふりかえると、平面的にひろがった街の上に、イサク聖堂と血の上の教会がひときわ高くそびえているのが見えた。
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