ロシアの旅/クラシック・コンサート
夕方になってリーザ嬢が迎えにきた。
お父さんの車はどうなりましたかと訊いてみると、なんのことかしらというような顔をする。
どうやら父親は娘に、駐車違反の件を話してないらしい。
彼女といっしょにロシア美術館から近いコンサート・ホールに行く。
なんというホールなのかと気になったけど、あとでもらったプログラムにはミハイロフスキー劇場と書いてあった。
かってはレニングラード国立劇場だった伝統ある劇場で、こちにもおもてからみると扉がいくつか並んでいるだけのあまり目立たない劇場である。
目立たないというのはロシアではめずらしいことではないのかもしれない。
わたしはモスクワにもどったあとで、もうひとつ劇場に行ってみたけど、そっちも建物は大きいものの、入口は小さなものだった。
伝統の重みは劇場に入ってすぐにわかった。
扉の内側は、こじんまりしているものの、タキシード、イヴニングドレスの紳士淑女たちの社交場といってもおかしくないきれいな劇場で、本来はバレエやオペラの劇場らしく、バレリーナや歌手たちの写真をかざった資料室まである。
ジーンズにウォーキングシューズでいいのかいと心配になるようなところだったけど、リーザ嬢もジーンズにブーツ姿だったし、ほかのロシア人たちもわりあいラフなスタイルの人が多かったから、劇場もむかしみたいにうるさいことをいえない時代になっているのだろう。
わたしたちの席は5階まである観客席の4階だった。
こんなこともあろうかと、わたしはバードウォッチング用の強力な双眼鏡を持参していた。
もっともこの日の演目はクラシック・コンサートだから、オペラグラスがぜったいに必要というわけでもなかったけど。
上から1階席をながめると、いかにもセレブといった感じの、フランス映画にでも出てきそうなイブニングドレスの美人も見える。
以下、プログラムにしたがうと、この晩の演奏はサンクトペテルブルク国立交響楽団で、指揮とソリストがセルゲイ・スタドラー (Sergey Stadler) となっていた。
プッチーニのバイオリン協奏曲がこの日のメインで、休憩をはさんでほかにベートーベン、リスト、ベルリオーズ、シューマンなどの曲がならび、合唱団まで登場したロッシーニのオペラ 「ウイリアム・テル」 からの曲がフィナーレというプログラム。
セルゲイ・スタドラーという人は、太ったバイオリニストで、指揮をかねた熱演だ。
知らなかったけど、日本でも数枚のアルバムを出している有名なバイオリニストらしい。
ただ、わたしはクラシックではバイオリンよりもピアノのほうが好きで、ピアノ曲ならラフマニノフ、シューマン、モーツァルトと、いくらでも挙げられるけど、バイオリン曲となるとさっぱり。
わたしはピアノの曲が好きでしてねとリーザ嬢と世間話をする。
彼女の母親のライサさんはピアノを弾くらしいけど、リーザ嬢は現代っ子らしく、ギターをやっているそうである。
エレキではなくクラシック・ギターだそうだ。
コンサートのほうは、最後に合唱団まで登場して、おごそかなうちにも盛大に終了したのでありました。
演奏のあいだ、わたしが寝てしまうのではないかと、リーザ嬢がこちらをちらりちらりと観察しているのがわかった。
いえ、寝ませんとも。
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