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2013年5月 9日 (木)

5月のメルヘン

463

この季節になると体がうづいてくるのは人間だけではありません。
アシの草むらのなかで1匹の雄のウシガエルが、伴侶を探してボオッとうなり声を上げておりました。
声を聞きつけて雌のウシガエルがやってくるのを待っているのです。
ただ声を聞きつけてヘビがやってくる可能性もあります。
用心深い彼はひと声鳴いてはすこし場所を変え、またそこで鳴くということを繰り返しておりました。

ある場所で、ヘビに下半身をくわえられている雌ガエルに出会ってしまいました。
彼にふさわしいなかなかすてきな雌ガエルですが、さて、こういう場合はどうすればいいのでしょう。
人間ならば警察に電話をすればいいのですが、カエルの世界にそんなものはありません。
まわりを見まわしてみましたが、たとえ棍棒のようなあったとしても、カエルにそんなものをふりまわすことはできないのです。
そのあいだにも雌ガエルはじりじりとヘビに呑み込まれていきます。
雌ガエルの表情からは、カエルにあまり表情はないのですが、それでも彼女の助けてちょうだいというせっぱつまった声が聞こえるようでした。

うーむと雄ガエルは思案しますが、どうしようったってどうにもなりません。
雌ガエルはヘビの口もとに、顔だけがなんとか見えるところまで呑みこまれていきました。
そんな雌ガエルの顔を見ているうち、彼もかってカルガモのひなを丸呑みにしたことを思い出しました。
絶望的なまなざしで見つめていたカルガモの母親の顔が目にうかびます。
彼はじたばたあばれるひなを、ひじょうな満足感をもって、ゆっくりと呑みこんだのでした。

どうにもならないものはどうにもなりゃしないんだ。
とうとう雌ガエルはヘビのお腹にすがたを消してしまいました。
いまはぽっこりふくらんだヘビの胴体になんとかそのあり場所がわかるだけです。
雄ガエルは複雑な未練を残しつつ、その場を去ることにしました。
これが野生の世界というものさ、野生動物のおきてというものさ。
去りぎわの彼はまるで悟りきった人間の哲学者のようでありました。

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