八重山行き/魚を釣る少年
団塊の世代にはなつかしい漫画家のつげ義春に 「紅い花」 という作品があって、その中にこまっしゃくれた言葉使いの少年が登場する。
都会からやってきた旅人が
「きみのかぶっているのはむかしの軍隊の帽子じゃないか」
「なかなか似合うぜ」 というと
「まず初めにサヨコがそう申しておった」 と答える。
サヨコというのがこの漫画のヒロインだけど、それはさておき。
かまどま荘のまえの岸壁には、夕方になると釣りをする少年が現われる。
彼は宿の息子だけど
「名前はなんていうんだい」 と訊くと
「いちど教えたことを何度も聞かないでくれる」 と、大人みたいな返事をする。
わたしは 「紅い花」 を思い出してにやりとした。
釣りをする少年と書いて、山口百恵の 「いい日旅立ち」 という歌も思い出した。
たしかこの歌の歌詞に似たような情景をうたった部分があったはず。
幸せを探しに旅に出るにはちっと歳をとりすぎだけど、ぷらりとひとりで出かける旅人にはいくつになってもふさわしい曲なので、わたしはこの歌が好きである。
株の上り下がりに一喜一憂するどこかおかしな社会から、ほんのひとときでも離脱したいという現代人は少なくないにちがいない。
少年はパンくずで魚を釣る。
かまどま荘から正面に夕日が見える。
テレビゲームに集中するわけでもなく、つめこみ教育を強制されるわけでもなく、自然のみを相手に成長する少年は、いったいどんな大人になるだろう。
だいたいこの非人間的な競争社会で、企業に勤めて出世することにどんな意味があるだろう。
こんな南方の島で民宿を引き継いで、父親から漁業を教わり、たまにやってくる旅人を迎えるような生き方のほうが、わたしにはよっぽどマシのような気がする。
少年の未来を見てみたいものだ。
添付した写真のいちばん上は少年。
2番目はその少年を撮るワタシで、ネタバレだな。
3番目はたそがれ時の景色。
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