八重山行き/1Q84
O君は八重山の旅にiPadを持参していた。
彼はさかんにその便利さを吹聴するけど、わたしはそれを無視し、ぜんぜん欲しいと思わないのである。
ヤケになった彼は、帰りの飛行機の中、目の前で画面を操作してマンガを読み始めた。
そういうものがお手軽に持ち運びできるというデモンストレーションである。
んなこといわれたって。
わたしは本を読むのは紙の本でという、頑固かつ古風な信念の持ち主だから、マンガだろうがなんだろうが相手にしないつもりだったけど、彼が村上春樹をちらちらさせ始めたとき、ついにそれを手に取ってみた。
世評の高いこの作家の作品を、いちどは読んでみたかったのである。
これまでその機会がなかった。
機会をつくるほど熱意があったわけでもないし。
このとき読んだのは 「1Q84」 という小説。
ロクなもんじゃないだろうと、これは世界的ベストセラー作家に対してはなはだ失礼な言い方だけど、映画なんかを観てもわかるとおり、昨今のそういうものはわたしの世代とは断絶がありすぎる。
現代の世代に支持されるものなら、とうぜんわたしの世代にはピンとこないものに違いないと、そういう偏見が最初からあってしまうのだ。
しかし考えてみると、この作家の年令はわたしとあまりちがわないから、彼はわたしの世代の代表みたいなものである。
そういう人が現代受けするってのはなぜなのか。
ま、そのへんを重点的に注視することにした。
冒頭を読んだかぎりでは、物語は2人の男女の物語が並行して進行する。
男のほうはまったく無視して、女のほうを読み進むと、渋滞で高速道路上でにっちもさっちもいかない女 (まだどんな人物なのかぜんぜん見当もつかない) が、意表をつくやり方で一般道路に下りてしまう。
女の衣装についてあれやこれやと詳しいので、むかしあった田中康夫の 『なんとなく、クリスタル』 みたいな小説かなと思う。
いまどきファッションやブランドにこだわるってのも古いような気がするけど。
とちゅうでこの女が殺し屋であることがわかる。
ふうん、ハードボイルドか、いや女ゴルゴ13かと思う。
続いて、仕事をひとつこなした女が、バーで知り合った親父に、じつにあけすけな物言いでセックスを迫る。
なんだなんだなんだといいたくなってしまう。
このあたりまではなかなかおもしろいけど、同時に先が見えたなって感じ。
これがミステリーとすれば、ついわたしの好きなサマセット・モームの 「アシェンデン」 あたりと比較したくなるけど、設定が突拍子もないことばかりで、じっくり読めるような雰囲気じゃない。
つまり、なんだな。
現代の読者というのは、こういう軽いタッチの、ありえない話が好きだってことだな。
春樹クンはそういう読者の嗜好を、もののみごとにすくい取ることに才能を発揮したってことだ。
そのへんのコツを呑みこみさえすれば、わたしの世代の作家でも、ベストセラーを量産できるってことになるのだろう。
うーんなんていろいろ考えているうち羽田に着いてしまったから、村上春樹もそこまで。
男の部分はぜんぜん読んでないし、そのくせ悪口になっちゃうのもマズイし、続きを読もうという気も起きないから、わたしにゃとてもこの小説の本質に迫れそうにない。
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