蕎麦屋
暑い日にはさっぱりしたものにかぎるというわけで、昨日は最寄り駅のそばの高級蕎麦屋に出かけた。
ちょっと値段が高いけど、わたしみたいな味覚音痴にさえ、旨いということが一目、いや一食瞭然なので、たまに出かける貴重な店である。
この店の蕎麦 (味が本格的だから “ソバ” なんてカタカナを使うのはおそれ多いのだ) を比喩するのに、食通で作家の開高健さん式でいくならば、蕎麦の一本一本が銀色に妖しく輝き、竹久夢二の描く和装美人のような腰があって、するりとしたのどごしは官能的なくらい。
日ごろぜんぜん縁のない上流階級のおしとやかで美貌の若妻を、てごめにするような快感とでもいうか。
いっしょにいった知り合いは、メニューが少ないのがキライなんてほざいていたけど、そのくせいつも盛り蕎麦しか食わないけど、本格的というのはこういうことだよと諭してやる。
諭してやるわたしはいつもトロロ蕎麦である。
また何かいわれそうだけど、好きなものを食べるのがイチバンである。
この貴重な店がつぶれてなくなっていた。
オイオイってとこ。
やっぱりこのあたりじゃハイブロウすぎたのかもしれない。
いくら旨くても客が来なくちゃ話にならない。
経営というのはむずかしいものだ。
仕方ないからもう一軒の店に出かけた。
こちらも、先の店には落ちるけど、味はまずまずの店である。
つぶれた店が上流階級の人妻なら、こちらはそのへんを群れをなして歩いている女子大生みたいな味とでもいうか。
わたしはこういうのもキライではない。
ついでにいうと、どこにでもある、カレーライスや天丼もやっているような大衆ソバ屋は、あれは十年ごしの古女房の味である。
それにしても上流階級が廃業したのは残念だなあ。
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