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2014年3月15日 (土)

ロシアⅡ/ライサ

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ソ連を崩壊させたと、現在ではロシアであまり人気のないゴルバチョフ大統領の、奥さんだったライサさんが亡くなったのは1999年のこと。
いちいち調べなくても墓石にそう刻まれている。

彼女はあまりおもてに出てこない共産圏のファーストレディとしては、例外的に積極的な人で、旦那に随行して公的な行事や外国訪問などに参加し、日本にもやってきたことがある。
わたしの頭の中にはきれいな人だったという記憶が残っている。

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その後の彼女の運命は歴史の荒波にほんろうされた。
クーデターの勃発で自分の生命まで危険にさらされ、エリツィンの登場、旦那の失脚、そしてきわめつけはソ連邦の崩壊だ。
ソ連が崩壊したのは1991年のことである。
彼女に責任があったわけじゃないけど、祖国が音をたてて崩れていくさまを、彼女はいったいどんな気持ちでながめたのだろう。

その後のライサさんについては、わたしはもう死亡のニュースでしか知らない。
葬式で旦那のゴルバチョフはあたりをはばからずに号泣したそうだ。
その気持ちはわかる、よくわかる。
彼女の墓のかたわらに乙女の像が立っている。
そのはかない顔つきがライサさんの墓にふさわしい。

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ライサさんの死後もロシアの変貌は続く。
わたしの世代はレーニンの革命こそ見なかったものの、ロシアの歴史のかなり重要な部分を目の当たりにしたことになる。
AKB48の女の子たちは、わたしと同じ時代の生きものとは思えないんだけど、ライサ・ゴルバチョフについては、まちがいなく同じ時代に生きた人だと思う。
この墓の下に、書物や絵画や映画ではなく、わたしがこの目で見たり聞いたりした、ロシアの歴史の断片が眠っている。
そう思うのはあまりに感傷的にすぎるだろうか。

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そういうわけで帰国の日、こんどはロシア人の友人の金髪クンを誘って、もういちどライサさんの墓に出かけてしまった。
彼女の墓のわきで (わたしが彼に) 説明していると、かたわらのヒノキの枝がかすかにゆれた。
ほら、亡くなった人がわたしと話をしたがっているよというと、風ですよと金髪クン。
あなたは神さまや死後の世界を信じない人なのに、どうしてそう思うんですかと訊く。
そりゃそうだけど、つまり文学的なでっちあげってやつだな。
熱海の海岸にはお宮の松ってのがあるよ。
その人が実在したわけじゃなくても、そういうものを空想して楽しむのは、日本人の文化だ。
話があらぬ方向に脱線しかかっているけど、ロシアや欧米ではそういう話はあまり聞いたことがない。
風なんか吹いてなかったぞ。

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