ロシアⅡ/雀が丘
5日目からは金髪クンが街を案内してくれることになった。
彼ははりきって、宇宙飛行士の博物館へ行きましょう、ルブりョフの家、トルストイの家、プーシキンの家は見たくないですか、例のオスタンキノ・タワーには登ってみたくないですかなどと、やたらにくたびれそうなところばかり推薦する。
こんな若いモンにつきあっていたら殺されてしまう。
作家の家なんか見たって仕方がないじゃん。
そんなものは本を読めばすむことだ。
ロシアの作家にあまりなじみのないわたしは、それよりもねという。
モスクワには雀が丘という景勝地があって、そこには森や林があるそうだから、ひょっとするとロシアの田園風景のようなものが見られるかもしれない。
そういうところへ行きたいんだよといってみた。
彼は納得できない顔をしていたけど、そこへ行くことになった。
雀が丘へ行くためにはメトロのヴァラビヨーヴィ・ゴールィというややこしい名前の駅に出なければならない。
これが雀が丘という意味なんだそうだ。
そういわれてみると、この駅名の響きは小鳥の声を思わせる。
この日は雀が丘のあたりをぶらぶらするだけで終わりにするつもりで、のんびり出かけ、とちゅうの駅で金髪クンと落ち合って、ヴァラビ駅に着いたのは午後になっていた。
着いておもしろいと思ったのは、この駅はモスクワ川のま上にあったこと。
ホームのま下を、この季節としてはめずらしいことに、凍ってない大河がとうとうと流れているのである。
駅舎も近代的で、ソ連時代の名残りをひきずるほかの駅とはちがっていた。
駅を出ると目の前は雪におおわれた山の斜面である。
もっとも雪も山もたいしたことはなく、遊歩道が造られ、散歩するモスクワ市民もいた。
山の上にはスキーのジャンプ台も設置されている。
斜面を登るのは息が切れるけど、わたしはこういう場所が好きなのであまり苦にならない。
ガイドブックにはリフトがあると書いてあったけど、そんなもの最初からアテにしてなかった。
登りきったところに大きな道路があり、そのわきが雀が丘の見晴台だった。
ながめると眼下に湾曲したモスクワ川が流れている。
その向こうにはスポルチ駅前のスタジアムや、行ってきたばかりのノボデヴィチ修道院や墓地が見える。
クレムリンはよく見えない。
左前方に高層ビルが乱立した一画があり、これは幕張メッセや汐留ニュータウンのような新都心になるべき地域だそうだ。
中国みたいに古い建物を一掃して新しい街をつくる国もあるけど、街全体が美術館のロシアではそれはもったいない。
べつの場所に新しい街をまとめてつくるのはいいアイディアである。
雀が丘からはナポレオンもモスクワ市街をながめたそうだけど、それはモスクワが焦土になる前だったのか、あとだったのか。
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