ロシアⅡ/墓石列伝B
最初の写真はわりあい目立つところにある2人の人物の墓で、2、3番目はもうすこし接近したそのふたつの墓。
男性の像は Юрий Никулинといって、ロシアで有名なエンターテイナーらしく(顔写真が彼だ)、この名前で検索すれば、YouTubeで生前の演技を鑑賞することができる。
バレエのレリーフが刻まれた墓石は、彫られた名前と死んだ年がちょっとちがうような気がするけど、ウィキペディアによれば1998年に亡くなった、ガリーナ・ウラノワという有名なバレリーナのものらしい。
以後ずらりと目についた墓の写真をならべる。
ほんとうはここに載せきれないくらいユニークな墓がたくさんあったんだけどね。
科学者、音楽家、タレント、政治家などの墓が多く、そのものずばりの故人の胸像や、その功績がひと目でわかるよう配慮したもの、その思想を反映させたような墓石が多い。
5番目の写真はごらんのとおり音楽家のもので、日本ではあまり知られてない、すくなくともわたしは知らなかったボゴスロフスキーという作曲家のもの。
6番目は落書きではなく、ちゃんと墓石に彫られた文字で、なんでも有名な数学者の墓らしい。
以下さっぱりわかりません。
11番目はコートをひっかけたハンサムな男性で、自己顕示欲の強い人らしく、いまでも花束が絶えないから映画俳優だったのかも。
14番目の天変地異に遭遇したような墓に葬られているのは、世界を破壊したいと考えていたアナーキストか、体制転覆をくわだてていたロック・アーチストだったのか。
まだ墓石の用意できてないものもあるから、いまでも墓は増え続けているようだ。
16番目は日本でもおなじみの政治家のもの。
スターリンの記憶なんてほとんどないから、不気味な生首みたいなフルシチョフは、わたしがものごころついて最初に知ったロシアの政治家だった。
そのつぎは、この墓地でいちばん目立つエリツィンの墓。
最後は大の日本びいきだったチェロの巨匠ロストロポーヴィチのもの。
テレビや雑誌、CDで彼のことをよく知っていたから、つい、お元気ですかと声をかけたくなってしまった。
相好をくずした地下のマエストロが、ああ、また築地の寿司が食べたいねと返事しそうな気がする。
わたしは死者が墓の下に眠っているとは思ってないから、すべて自作自演の空想なんだけど、それでもこんな空想にひたっているのは楽しい。
いったい墓ってなんだろう。
変人で皮肉屋のわたしはまた考えてしまう。
日本のある鉄道系財閥の創業者は、でっかい墓をつくって、子子孫孫ばかりか、自分の会社の社員にまでお参りを強要した。
みずからの栄華を末代まで誇ろうという気だろうけど、こうなると墓はその人の不名誉を記念する碑ということになってしまう。
墓なんて生きている人たちのなぐさめになるだけで、死んだ人のためにあるとは思わないし、エジプトのピラミッドでさえぼろぼろに風化していることを思うと、永遠の墓なんてあるわけがない。
この地球全体が自分の墓だと信じるほうが、気宇壮大なわたしにふさわしいではないか。
そう勝手に決め込んで、だからわがものである地球をよく見ておこうと、せっせと旅に出るのである。
『強い者も弱い者も、美しい者もみにくい者も、富める者も貧しい者も、いまは同じ、すべてあの世』
これは映画 「バリー・リンドン」 のラストクレジットの一節で、サッカレーの言葉だそうだ。
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