ロシアⅡ/墓石列伝A
観光客が修道院からちょくせつ墓地に入る門はないようで、その正門は壁にそってずっと横にまわったところにある。
警備はかなり厳重だ。
ここでも (たぶん) ノーテンキで無害な顔をしたわたしには、なにも問題はなかったけれど。
中に入ってノボデヴィチ墓地をじっくりながめてみよう。
門を入ってすぐ気がつくのは、レンガの壁いちめんに取りつけられた黒い小さな石板で、ほとんどに故人の顔写真がついている。
壁の有効利用というやつで、これがあるゆえに葬られている人の数はものすごく多い。
写真をひとつひとつながめてみる。
たとえば3番目の女性の顔。
若いきれいな人である。
彼女の生前のいちばんお気に入りの写真を使ったのかもしれないけど、これを見ているといろいろな思いがこみあげてくる。
彼女の人生はどんなものだったろう。
古くさい髪型からして、彼女が生きていたのはおそらくソ連の時代。
それでもこの名誉ある墓地に名前が刻まれているということは、地位も家庭も満ち足りた人生だったのだろう。
ロシアの現在を知らないまま死んだとすれば、それは彼女にとって幸せなことだったのか、不幸なことだったのか。
ノボデヴィチ墓地はさながら彫刻の森である。
箱根や美ヶ原にある彫刻の森のように、彫刻というものは美術館のコンクリートの部屋の中に置かれるよりも、自然や移り変わる四季の変化の中に置かれたほうが、芸術としての価値を高めるものだとしみじみ思う。
門を入ってすぐのところで、この墓地の地図が売られていた。
いくらと訊いたら100ルーブルだという。
高そうな気がしていちどはことわったけど、考えてみたら300円だ。
引き返して1部購入した。
この日に墓を見物していたのは、ロシア人もしくは欧米人の若者グループがひと組と、あとは夫婦や家族などのロシア人が数組で、地図はほとんど売れてなかった。
この地図によると著名人の墓だけでも250人を超える。
もちろん日本人が知っているのはこのうちの数パーセントだろうけど。
この日のわたしには、墓地に着いてから地図に書かれたロシア語の故人名を翻訳して、ひとつひとつの場所を確認するヒマがなかった。
だからおおざっぱに目についた墓だけを2回にわけて紹介する。
| 固定リンク | 0






コメント