ロシアⅡ/お別れ
そんなこんなで午後3時ごろになった。
金髪クンがいたおかげで、あちこちでロシア人と会話できて楽しかったけど、彼ともいよいよお別れだ。
日本に帰ってくるつもりはないのかいと訊くと、日本ではおかしな動物みたいな目でじろじろ見られて、いやでいやでたまらなかったそうである。
いろんな悩みがあるものだ。
ホテルにもどり、フロントのきれいな娘から預けたバッグを受け取り、空港へ向かう。
空港へ行くまえに、金髪クンと2人で、ベラルーシ駅近くのレストランで食事をした。
壁ぎわに磁器の皿などが並べられていて、青山、西麻布ふうの店、といいたいところだけど、残念ながらベラルーシ駅のまわりは、庶民的な雑踏の街だ
ここで、今回の旅で初めてボルシチを食べた。
以前の旅でも食べたことがあるけど、ふだんあまりなじみのない食べものであるから、正式の食べ方なんていまでもよく知らない。
白いクリームをかきまぜて食べるのが一般的な食べ方だそうだ。
わたしはほとんどベジタリアンだけど酒は飲む。
金髪クンは酒を飲まないけど肉は大好きである。
ビールを飲む男と肉を食べる男で世間話をする。
彼は自然食品の愛好家で、田舎から行商にくるおばさんから玉子を50個まとめ買いするのだそうだ。
そりゃコレステロールの原因じゃないかと冗談をいってみた。
でも半分は彼女に食べさせますからという。
毎日目玉焼きばかりが原因で彼女と別れる話が、モームの 「アシェンデン」 にあったっけ。
せいぜい注意しなさいといっておく。
テーブルの上のお知らせをみて、金髪クンが、その月が誕生日の人は15パーセント割引ですという。
来月だったらねえとわたし。
わたしの誕生日は3月である。
3月になるといくつになるのかなんてことはどうでもいいけど、ただ、わたしの歳でモスクワひとり旅ってのはめずらしいかもしれない。
ベラルーシ駅で金髪クンと別れた。
別れぎわに彼は、夏になったら日本に行ってみたいですという。
ロシアが二重国籍を認めているかどうか知らないけど、彼は日本国籍を取得しているから、現在は日本人でもあるのだ。
彼女といっしょにおいで。
そのときは讃岐うどんでもなんでもご馳走してあげるからといっておく。
エクスプレスの改札で、わたしたちはロシア式にしっかりと抱擁しあった。
空港まではひとりでエクスプレスに乗った。
いちど下見をしているからなにも問題はなかったし、空港で出国手続きもあっけないくらい簡単に済んだ。
待合室で飛行機への搭乗を待ちながら外をながめると、雨が降っているようでガラスを通した景色がにじんで見えた。
まるで古い日活映画のラストシーンのようだなと思う。
こういうことを書くから歳がバレてしまうんだけど。
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