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2014年4月21日 (月)

こころ

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ここ2、3日、ウチの新聞 (朝日) は夏目漱石の賛辞記事でいっぱいだ。
なんでも100年まえのちょうどこのころ、漱石が朝日新聞に 「こころ」 の連載を始めたんだそうで、それを現在の朝日新聞が復刻連載を始めたのだ。
新聞はインターネットにその地位をおびやかされて青息吐息だから、なんとか劣勢を挽回しようとあの手この手をふりしぼっていて、この連載もそうしたふりしぼりの一環らしい。
100年の節目にやるなら、漱石が朝日新聞に連載した最初の作品 「虞美人草」 のときにやるのがスジだけど、これは 「こころ」 に比べると読みにくく、読者の人気もイマイチだから、「こころ」 になったらしい。
でもあまりベタ褒めされると、ひいきのひき倒しみたいでとまどいがあるな。

わたしも夏目漱石が好きである。
「猫」 や 「坊ちゃん」 を読んだころは、てっきりユーモア小説を書く作家と思っていたので、「三四郎」 や 「こころ」 を読んだときにはちょっと失望した。
失望はしたけど、その深刻な内容には、ちょうどわたしも失恋や、生きるという問題に直面して悩みはじめたころだから、いろいろ考えさせられるものがあった。

漱石の小説の本質についてややこしい理屈はいわない。
社会人になってから、わたしはいちどだって、意気軒昂で、人生を果敢に切り開こうなんて思ったためしがない。
わたしの人生は失意や挫折ばかりだった。
こういう人間には漱石の小説がぴったりくるのである。
若いころからハンサムで、体育会系で、女の子にモテモテの人間が漱石を好きだなんて聞いたことがない。

というわけで、なつかしい気持ちで連載を読み始めた。
でも、こういう小説は若いころに読んでこそ価値があるもので、わたしにかぎれば、なつかしい恋人に再会したような気分だけど、おたがいに相応の歳になっちゃって、もう肉欲に燃えようって気にはならないよな。

ウチの新聞も酔狂なことを始めたものである。
漱石の小説はとっくに著作権が切れていて、インターネットでも無料で読めるのだ。
ネットに毒されて、そもそも新聞を読まないいまどきの若者に、新聞小説がなにかインパクトを与えるだろうか。
ま、ヘタな小説を読まされるよりはマシか。

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