西表島/ぶーの家
シオマネキの見物からもどってもまだ晩メシには早い。
宿のまえに置かれたベンチでぼんやりと風に吹かれる。
退屈する人もいるかもしれないけど、わたしはこういう時間の過ごし方が好きである。
ビールでも飲むかと、かまどま荘の奥さんに聞いたら、ありませんとあっけらかん。
ぶーの家ならあるかもしれませんという。
「ぶーの家」というのは近所のカレー屋さんで、ぶーというのはそこで飼われているイヌの名前だ。
地の果てみたいな場所にあるのだから、商売熱心な店とはいえないけど、船浮地区では貴重な食堂である。
ほかにアテもないから行ってみることにした。
ぶーの家の女主人は関西出身の人だそうで、それがどうして地の果てに永住することになったのか、サムセット・モームあたりが小説の主題に取り上げそうな人である。
わたしは女性に対してさしでがましいことをしない人間だし、口ベタで話好きでもないし、作家が勤まるようなリアリストでもないから、彼女についてそれ以上知ることがない。
そんなことはどうでもいいけど、ここにはビールがあった。
食堂にビールくらい置いてあるのは当たり前だという人がいるかもしれない。
しかしここは石垣島からフェリーで1時間の西表島、その西表で連絡船に20分、ようやくたどりつく辺境なので、たかがビールといえども、商品の往来がいちいち大変なところなのである。
安心して、店のテラスにすわってビールを飲む。
ところで家の主役のぶーはどこだろう。
1年まえに来たときも姿を見なかったから、とっくに死んじゃったのではないか。
いえ、そこにいますと女主人。
見ると彼はテラスの床下にもぐって日差しをさけていた。
血統書つきならテリアの亜種かもしれないし、血統書がないならそのすじの雑種という感じ。
ネットで有名人のこのイヌも、すでに13歳だというから、そのうち後継者が必要になるかもしれない。
そのうちかまどま荘の主人がやってきて、缶ビールを6、7本持っていった。
あれはきっと今夜の食事に出すわたしの分だねと女主人にいうと、いや、奥さんの分じゃないかしらという。
このあたりを推測すると、かまどま荘の主人は酒を飲まないが、奥さんは飲むらしい。
ビールばかり飲んでいて写真を撮るのを忘れたから、ぶーという有名なイヌの写真はネット参照のこと。
ぶーの家については1年まえに撮ったものを載せておく。
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