翠子さん
昨日は仲間うちの寄りあいがあって府中まで出かけた。
どこで寄りあいをするかって、つまり飲み屋を探して、市内をうろうろ。
お目当ての店が見つからず、いいかげんくたびれたころ、府中街道と旧甲州街道がまじわるかどに、まっ黒にぬられた造り酒屋があったので、そこでひと休みしていくことにした。
この酒屋は万延2年に創設の古い店だそうで、建物の外観は土蔵を模したまっ黒なものだけど、内部は古風と近代の折衷したモダーンなものである。
酒店以外に喫茶室やギャラリーが併設されている。
なかなかいい雰囲気の店だけど、口コミ情報があふれているので、わたしはあえてそんなものに関わらない。
喫茶室で軽くワインを飲んだあと、2階のギャラリーに顔を出してみた。
すぐに翠子 (すいこ) さんという、笑顔のすてきな女性が寄ってきた。
どういうふうにすてきかというと、甲斐性のある旦那と複数の子供にめぐまれて、家庭的に満ちたりた主婦の笑顔というか、思わずこっちも幸せな気分にされてしまうような笑顔である。
壁にかかげられた絵はこの翠子さんの作品だそうだ。
北斎ばりにデフォルメされた富士山や、ダルマさんの置かれた寺院の庭、花の咲きみだれる草原風景などがある。
最初ちょっとめんくらったけど、これはすべて刺繍で、今ふうにはファブリック・ピクチャーというのだそうだ。
絵画作品と比較してみると、マチスの室内画を思わせるものもあるし、全体としてグランマ・モーゼスのような、素朴派というべき系統の作品が多い。
たぶん翠子さんも純真な少女の気持ちを失っていない貴重な大人なのにちがいない。
ここに添付した花の絵は、富良野のラベンダーかと思って尋ねると、ヒソップですという。
そんな花の名前は知らなかったから、帰宅してネットで調べてみた。
ハーブや薬草として使われる花だそうで、柳薄荷 (ヤナギハッカ) という和名もあるらしい。
わたしがよく出かける野川公園の自然観察園でも、見たことがあるようなないような。
これって完成までにどのくらいかかりましたかと訊くと、半年という返事だった。
たいへんな労作である。
しかし油絵でも傑作とされるものの中には、そのくらい手間ひまをかけた絵はぎょうさんある。
刺繍でもなんでも、時間をかければかけるほど立派な作品に仕上がるものだし、この絵をみるかぎり、翠子さんの労苦はむくわれているように思える。
わたしの足は直前に飲んだワインでふらついていたけど、なんとか無事に階段を下りて、ギャラリーをあとにすることができた。
仲間たちは店のまえで待っていた。
彼らもギャラリーをのぞくような、いい意味での好奇心を持っていれば、2階ですてきな女性とお近づきになれたものを。
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